第33話 綾子、のりにプレッシャーをかける

 その夜うちらは本当のカップルとして、付き合う事に決めた。これからの事の話が長引いたせいで、初めて門限に遅れた。9時半くらいところか、10時半過ぎていた。電話音が近所迷惑になるから、家に電話できない時間や。だから連絡せず、そのまま真っ直ぐ家に帰った。家の前には、仁王立ちした綾子が待っていた。


 綾子の姿を見て、うちは緊張した。のりが何を言われるかわからへん。どうしよう…。うちが考えてる間に、のりが綾子に謝る。

 「綾子ちゃん、純子を、送るの遅なってごめん。心配かけて、ごめん。」

 「…。」

 綾子はなにも言わずにうちらを睨んだ後、いきなり笑い出した。綾子の中で、なにがあったんや。しばらくは、その笑いが止まらなかった。


 「姉ちゃん、お帰り。門限破るなんて、安心したわ。」

 「安心したって…うちら、心配かけたんやないんか。」

 「確かに心配してたわ。いままで、理由がない限り時間通りに帰ってきてたからな。遅れる連絡もきっちりくれてたし。でも、今日は連絡もなく門限破った。…めちや楽しくて時間忘れてたんやろ。」

 うちとのりは、お互い見つめ合い、さっきあった事を思いだして、照れて俯いた。そんなうちらを綾子が、楽しげに見ている。


 「今まで姉ちゃんには、松山さんに対する熱があたしには、感じられへんかったんよ。もしかして、松山さんに強引に迫られてつきおてるだけなんかなあって、何度か思ったし。しゃーから、松山さんには、泣かせたら許さないとか言ってプレッシャーかけたりしてんけど。」

 うちはびっくりして、言葉に詰まった。綾子はうちの気持ちを見通してたんか。身内びいきで、のりが悪もんになってるのにはビックリやけど。のりは綾子の言葉を満面の笑顔で聞いていた。悪もんにされてんのにそれでええんか。綾子は続けて言った。

 「野村先輩から松山さんの人柄は聞いていたけど、友達には見せない裏の面があるかもしれへんし。姉ちゃんお人好しやから、無理に付き合わせられてるかもという可能性が今まで棄てられへんかってん。しゃーから、今日の姉ちゃんを見て安心したわ。ほんまに松山さんの事、好きやねんな。」


 恥ずかしさのあまり、顔が赤くなる。のりへの気持ちは、自覚したばかりの想いやねんけど…。うちは小声で呟いた。

 「…そんなん、当たり前やん…。」

 のりも綾子も、にこにこしている。

 「松山さん、これからも姉をよろしくお願いします。でも、学生やから、節度もったお付き合いして下さい。なんかあったら、泣くのは女の方ですから。それから、なるべく門限は守って欲しいです。」

  のりは顔を赤くしながら答えた。

 「…俺は純子が好きやから…そのっ…心配かけないように努力します。」

 綾子は満足そうにうなづいて、うちに笑いかけた。ほんまに綾子にはびっくりや。認めながらもさりげにのりに新しいプレッシャーをかけるなんて。年下で、しかも中学生に注意を受けるうちら…はたから見たら、おかしいやろうなあ。


 「あたしはうちに先に入ってるで。姉ちゃん、松山さんが帰るの見送りたいやろ。名残惜しくても5分くらいであいさつ済ませて、家に入りや。」

 そう言って、綾子が家に入った。

 うちとのりは、笑いあいながら、軽くハグして、おやすみと言った。のりを見送り家に入ると、お母さんと綾子がうちを見て、にやにやしていた。

 「お母さん、遅くなってごめんなさい。」

 「うん。ほんまは怒るとこやけど、綾子がお母さんの代わりに、いろいろ言ってくれたからもうええで。」

 「気をつけます。」

 「でも、節度あるお付き合いする事だけは重ねてゆうとくで。簡単に一線は越えたらあかん。いままで、そんな心配はしてへんかったんやけど、今日のふたり見てたら、なんか様子が違う気がしたからな。」

 お母さんは、家の玄関から、うちらを覗いていたんやって。それで、今まで家の前で、抱き合ったところは見た事なかったしなと言った。

 その日は寝るまでずっと、綾子にからかわれ続けた。お母さんも、それを笑いながら見てたし。うちはくすぐったい気持ちのまま、眠りについた。いままで寝付かれへんかったんが嘘みたいによく眠れた。

 

 

 

 

 

 

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