第31話 緑公園の木々はざわめく
うちとのりは、7時すぎにカラオケが済んだら、そのままファミリーレストランに行った。のりが家まで送ってくれる条件で、夜の9時半頃までに帰ればええから、ご飯は食べられる。今日は窓際が空いてなかったから、離れた向かえ合わせの席に座った。どちらが奥に行くかとか気を使わなくてもええから、気が楽や。窓際にソファーがあって、向かいが椅子の席の時は、のりはうちを必ずソファーに座らせてくれる。だから、『たまには奥に行って』と言うけれど、のりは『綾子ちゃんに見られたら、俺が怒られるわ』と言って、絶対座れへん。妹の綾子を理由にしたら、うちがそれ以上なんも言われへん事がわかってるから。もしも仮に見られたらほんまにその場でなんか言いそうやもんな。
うちらはファミレスのお勧めのメニューを見ながら、どれが美味しそうとか他愛のない話しをして、結局定番のメニューを頼んだ。この日は、うちは豚カツ定食で、のりは唐揚げ定食を頼んだ。ジュースはカラオケで散々飲んだから、ドリンクバーは頼まなかった。
8時半にファミレスから出た。
「純子、緑公園に寄ってくれへんか。ちょっと話しがあるねん。」
「もしかして、ファミレスで話するの忘れてたんか?」
のりはうちから目をそらしながら言った。
「その話は理由あって、ファミレスではできひんかってん。」
もしかして、和歌子の話かな…。それやったら他の人に聞かれたらまずいわな。
「そうかあ。うん、わかったわ。」
もう夜やし、誰も見てへんから、うちとのりは手を繋がず、少し間をあけて、隣同士で歩いた。
緑公園は、夜は沢山の電燈がついていて、結構明るい。木がいっぱいあるから、夜の公園内の奥は、ひとりでは怖くて歩かれへんけど。公園入ってすぐの道路側のベンチで人と一緒やったら、木が遠いし明るいしから大丈夫や。
うちはのりとふたりで、道路側のベンチに隣同士で座った。風に吹かれて木々が揺れる音が聞こえる。離れている所にあるのに、やけに大きな音や。のりは、なんにも言わずに、上を向いている。沈黙のベールがふたりを包んだ。
「なあ、純子。」
のりがおずおずとした様子で、やっと声を掛けてきた。
「前、ゆーてた事やけど、俺とは、ほんまの恋人になられへんか?」
「どうしたんや。急に。答えは、まだ先でええって、ゆーてたやん。綾子の事もあるから、タイミングを見て、その時でええって話やったと思うけど。」
「そうか。まだそんな答えって事は、俺はあかんねんな。」
のりが真面目な顔で、真っ直ぐうちを見て泣きそうな顔になった。その悲しげな表情にうちはなんにも言われへんようになった。
「なあ、純子は三沢の事、いまでは好きなんやないか。」
「なんでそんな風に思ったんや?」
「三沢が何かするたぶに、赤い顔してる純子見て、そうなんかなあって。俺とカモフラージュしてるから、いかれへんのかなって。」
のりは、うちの顔を真っ直ぐに見て、それから話を続けた。
「俺、三沢を見ているお前を何回も見て、いろいろ考えたんや。このままお前を、カモフラージュで俺に縛りつけていてもええんかなって。純子は優しいから、三沢のところに行かれへんかもって。」
確かにうちは、和歌子の表情のひとつひとつに、翻弄されてるような気がする。だけど大泉さんとは、ときめきの種類が違う。大泉さんへのドキドキとは、また別や。うちがその事を言おうとした時、のりが辛そうな顔をしながら言った。
「だから、純子、俺とのカモフラージュはやめてもええで。」
強い風が吹いて、緑公園の木々がざわめきだす。うちは何を言われたのか、すぐに理解できずに、のりの顔を見つめた。
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