第30話 和歌子について考えてみる

 和歌子と会った次の日。日曜日やから、うちとのりは、ふたりで出掛ける。今日は大声で歌いたい気分になって、カラオケは、フリータイムにした。持ち込みしてもええから、お昼は、相談して、ハンバーガーとポテトを買って食べる事にした。デザートは、アップルパイ。歌ったら絶対喉が渇くから、ドリンクが飲み放題なのが嬉しい。チーズバーガーを食べながら飲むコーヒーがうちは大好きやったりする。のりはたいがいチキンバーガーとコーラ。うちらは、美味しいなあと言いながら、パクついた。横並びに座って、液晶画面に映るカラオケの宣伝を見て、この歌ええなあとか感想を言いあった。


 カラオケのリモコンを触った時、のりはうちと和歌子がこの間歌ったアニメソングをお勧めの曲に見つけた。

 「三沢がこれ歌おうってゆーたんは、大泉さんの話しで聞いてたから、お前と一緒に歌いたかったんやろうな。」

 「そうかもな。あの時はブルーになって、ごめんやで。」

 「あれはしょうがないで。大泉がお前の気持ちにおるんやし。俺かて、ブルーになる曲あるしな。」

 「ほんま、いつになったら忘れられるんかなあと思うわ。昨日も、緑公園に行った時、ついつい思い出したし。」

 うちはまた、昨日みたいに涙が流れた。のりは黙って横を向いて、うちを泣かせてくれた。ほまにいつまでメソメソしてるんやろう。もう半年も前の話しやのに。


 10分程してから、少し落ち着いたうちは、歌い始めた。折角きてんから、楽しまなあかんよな。

 「のり、よかったらこの歌、一緒に歌って欲しいねんけど。」

 のりは驚いた顔をして、うちを見る。選曲は大泉さんと一緒に歌ったアニメソング。

 「ええけど、これ歌って大丈夫か?」

 「うん。大丈夫って事にする。」

 のりはうなづいて、曲を入れてくれた。

 好きな歌が、辛い思い出だけになるのは嫌やから、思い切って歌った。ちょっとブルーな気はしたけど、もう涙は出なかった。


 その後、のりとうちは、それぞれ、いろんな歌を歌った。のりはゲーム系のバンドの歌をカッコ良く熱唱したり、懐かしのアイドルの歌をもの真似しながら歌い、うちを笑わせてくれた。男女共に上手いからすごい。のりは器用なんやと思う。うちは、アニメソングと映画の主題歌を歌って、時々懐メロ。低い声の歌より、高い声の歌が得意やで。


 それから歌い続けて2時間後。ふたり共、歌う曲が途切れたから、次に歌う歌を探している時に、のりが聞いてきた。

 「なあ、純子…。」

 「なんや?」

 「三沢の事、どうするねん。」

 「昨日まで〝さん〟づけだったのに、昨日の夜から呼び捨てになってるで。」

 「純子に痴漢しようとしたんやから、丁寧に扱う必要ないやろ。」

 のりは膨れっ面して、答えた。

 ああ、そうや、和歌子に、キスされそうになってたんや。のりが来たから、未遂やったけど、うちは動かれへんかったから、あのままやったら…思いだして、顔が赤くなった。

 

 それにしても、和歌子がのりを好きでないのは、めちゃ意外やった。まさか、大泉さんから聞いてただけで、会った事もないうちに憧れてたなんて。

 和歌子は確かに可愛いし、笑顔や上目遣いに、ドキドキさせられる。長い黒髪に、女の子らしいコロンの匂い。付きおうたら好きになってしまうかも。でも、いまは…。


 「そうやな。和歌子やったら、好きになってしまうかもと思うわ。でも、あの子は大泉さんのいとこやし、ちょっと無理かも。それに…。いま思いだしたけど、のりと和歌子が付きおうても、うちと和歌子が付きおうても、綾子が怖いわ。」

 のりは笑って、それはこわいなと言った。

 「のり、とりあえず今は、歌おうや。カラオケに歌いに来て、話しばかりするなんて、もったいないやん。」

 「よっしゃ。じゃあ、俺は雪中路真美を歌うわ。『悪女』入れよう。」

 「うちは、マリ飯島さんにするわ。『シンデレラ』歌おう。」

 共に歌姫対決で、ものすごく盛り上がって、うちが泣いてたのが嘘みたいやった。

 こんな調子で、フリータイム終了時間まで、うちらは歌い続けた。外にでた時は、夜の7時過ぎで、暗い夜空に、星が輝いていた。


 

 

 

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