第29話 和歌子の正体
「何ゆうてんの…和歌子。うちらはラブラブやのに…。」
「いいえ、そんなはずありませんわ。」
夕陽に染まった公園で、和歌子の顔が、うちらをあざ笑う。
「三沢、お前なんか根拠があって、ゆーてんのか。」
のりが冷静に聞き返す。
「もちろんですわ。付き合ってるわりには淡々としていたし、カップルのいちゃつき方には、見えませんでしたもの。だからすぐに嘘だとわかりましたの。」
「いや、いや、うちらはカップルやから。」
「それなら、証拠を見せて下さいな。手を繋いでる真似事なんか、誰でもできますもの。」
証拠…?証拠って、もしかして…。うちは、顔から湯気がでた。
「そんな恥ずかしい事、人前でするもんやないやろ。」
のりが顔を赤くして、激しく抗議する。
「ほら、やっぱり、カモフラージュでしたのね。」
のりが唸っている。すごく困ってるんやろうな。うちは、とっさにのりに顔を近づけて、軽く頬に触れるキスをした。
「和歌子、人前では、恥ずかしくて、このくらいしかできひんわ。」
のりも和歌子もびっくりしていた。
「そんな…。純子さんと松山君は、カモフラージュで、純子さんは女の子を好きなはずなのに…。」
「なんでそう思ったんや?」
「だって、わたくし、こちらに引越しする前は、幼馴染みのカモフラージュの恋人をしていましたから。」
のりが顔面蒼白になる。うちはびっくりして、言葉がでない。そう言えば、向こうにもカモフラージュの相手がいて、幼馴染みと聞いていた。
「彼ね、しばらくショックで、立ち直れませんでしたわ。女の子に取られるなんて、思っても見なかったみたいで。」
「もしかして、あいつの為に、俺らを荒らすつもりやったんか。」
「いいえ、そんなつまらない事、わたくしいたしませんわ。おふたりに興味があったのは、本当ですけれど。」
そして、和歌子は自分の事を語り出した。
「実はわたくし、いとこがこちらに住んでいますの。名前は、大泉雅代。」
「ええっ、大泉さん?!」
「雅代ちゃんと会うたびに、純子さんのお話を聞いていて、すごく憧れていましたの。それから、しばらくして、雅代ちゃんから、純子さんを振った話しをされて。その矢先に、幼馴染みの彼から、カモフラージュの恋人を頼まれましたの。彼の口から、松山君の相手が、純子さんだと聞いた時には、驚きました。元々、わたくしこちらに引っ越す予定でしたから、純子さんに会うのを楽しみにしていましたの。純子さんは、わたくしが思っている以上に、優しくて、可愛らしくて。松山君の事が、どれだけ妬ましかったか。」
えっと、それって…。和歌子が好きやったんは…うちっ?!
「でも、まさか、本当に付き合ってたなんて…。男の子が好きになってたなんて…。」
和歌子の頬に、涙が光る。綺麗な真珠のような涙。魔女からまた天使の顔になった和歌子は、「ごめんなさい。」と一言呟いて、振り向かずに歩いていった。
緑公園の上に、いつの間にか、夜のとばりが降りてきた。
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