第27話 うさぎの縫いぐるみは友情を育む
カラオケが終わって、最後に当初の予定通り、ゲームセンターに行った。カラオケでうちがブルーな理由を知ってるのりは、自分の得意なクレーンゲームの前にうちらを連れてきた。のりはガラスケースをじっと見た。
「三沢さん、純子はうさぎ好きやから、あのピンクの取ろうと思うねんけど、三沢さんもうさぎでええか。あの白いの。」
「色違いで、中村さんとお揃いなんて、素敵ですわ。」
のりは、うちを笑わせようとしてくれてるんやな。過去を思い出してくよくよしてた事がわかったから。単純やけど、のりの優しさに、癒された気がした。ありがとうやで。のり。
のりは、とるとるキャッチャーでうちらに色違いのうさぎをとってくれた。和歌子が白で、うちがピンク。うちはめちゃテンション上がって、喜んだ。ピンクのうさぎは、うちが好きな漫画のキャラクターで、桃ちゃんという名前や。三沢さんの白いうさぎは、白雪ちゃんで、桃ちゃんの親友。その設定を、三沢さんに話したら、「わたしも、中村さんと、そんな風に、仲良しになりたいですわ。」と、顔を赤くしながら言った。うちも顔が赤くなって、チラッとのりを見た。のりはうちが笑ってるのを見て、安心したのか、うちらの会話をにこにこして、聞いていた。
のりは自分で、『他のゲームは普通やけど、これだけはひろよりうまいねん』と言っていた。野村君は、反射神経がええから、いろんなゲーセンで、すごい得点をだすらしい。だけど景品とかとるのは苦手なんやって。のりは、うちらのぶんと、綾子のぶんまで取ってくれたのに、入れたのは500円玉1枚。うちなら2千円くらいは軽く無くなると思う。絶対、3個も取られへんし。
「松山君、すごい特技ですわね。」
三沢さんが、感心している。
「いとことゲームセンターに行った時、とるとるキャッチャーをした事があるんですけれど、全然取れませんでしたわ。なにかコツがあるんですの?」
「そうやな…。全体を見て、欲しいのが取れそうならやるようにしてるで。縫いぐるみでも、箱でも、取れる角度の調整が、1、2回で、できそうやったら、チャレンジしてみるけど。」
「三沢さん、のりはあっさり言うけれど、その調整をどうしたらええのか、うちにはさっぱりわからんのや。」
三沢さんは、とるとるキャッチャーの中の縫いぐるみを見て、ため息をついた。
「そうですわね。確かに、このとるとるキャッチャーのどれが取れやすいとかも、わたくしにもわかりませんわ。」
のりはうちらを見て、言葉を考えながら、呟いた。
「そうやなあ。説明しにくいわ。たいがい感覚でやってるし。…じゃあ、今度来た時に欲しいのがあったら、ゆーてくれ。俺が判断して、取れそうなら、教えたるから。それ狙えばええで。俺が取ってもええけど、自分でも取りたいから、取れるコツを、聞いてきたんやろし。」
「はい、その時は、お願いします。」
三沢さんは、天使スマイルを見せて、のりにお礼を言った。でも、のりは他の男子みたいに、ぼぉっとならない。もともと女性に興味なかったからかもしれんな。こんな美女よりなんでうちがええのが、よくわからへんねんけど。縦食う虫も好きずきというけれど、他の男子なら、とっくに三沢さんに骨抜きになって、うちの妹の綾子にすでに呪いの洗礼を受けてるやろうなあ。
最後に記念のプリクラを撮る計画も、実行した。3人で撮った後、うちと三沢さん、のりとうちというツーショットも撮る。のりからもらった桃ちゃんと白雪ちゃんも、抱いて写した。みんなでプリに落書きするのは、めちゃ楽しかった。いつの間にか、時間が過ぎて、帰る時間になった。
うちとのりは、当然、三沢さんを家まで送って行った。普段あまりうろうろせえへんのやったら、土地勘もないやろうし。三沢さんは美少女やから痴漢に狙われたらあかんし。
三沢さんの家に着いた。結構大きな一軒家だった。やっぱり、お嬢様やねんなあ。
「今日は、おふたりとも、ありがとうございました。とても楽しかったです。」
「うん、うちらも楽しかったわ。ありがとうな。」
うちらが帰ろうときびすを返すと、三沢さんに呼び止められた。
「わたくし、今日、本当に、桃ちゃんと白雪ちゃんみたいに中村さんと仲良しになりたいと思いました。だから、わたくしの事をこれから和歌子と呼んで下さい。」
うちは一瞬、顔が赤くなった。
「和歌子…。じゃあ、うちの事は、純子でええで。」
三沢さんは、にっこり笑って言った。
「純子さん。おやすみなさい。」
三沢さんは、ゆっくりとうちらを見ながら、家の中に消えた。
うちは赤い顔のまま固まっている。のりは、いつまでも動けないうちの肩をたたいて、帰るでと言った。
暗い街の中で、夜空の星がすごく綺麗に見えた。
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