第24話 新たな悩み事

 その夜、のりから家に連絡が入った。敏江はうちを送ってくれてから、わざわざ学校に戻り、のりにうちの目まいを、知らせてくれたんやって。野村君が聞いたらびっくりするやろうなあ。野村君は、中学時代、敏江の我儘に付き合うなって、わざわざ説教しにきたくらいやから。我儘で、めんどくさがり屋で、自分勝手やったのに。いまでは、うちの為に動いてくれるもんな。敏江に感謝やわ。


 「純子、大丈夫か?」

 「うん、大丈夫やで。ありがとう。」

 うちが寝不足が原因で、目まい起こしたと聞いて、心配するのり。

 「寝られへんほどの悩み事でもあるんか?そうなんやったら、俺でよかったら、話し聞くからな。」

 「ううん、悩んでないで。でも、何かあったら、相談するわ。」

 「わかった。悩み事がでてきたら、ほんなにそうしろよ。しんどいのに電話かけてごめんやで。おやすみ、純子。」

 のりはそう言って、電話を切った。


 うちが寝不足の原因は、のりの告白やったりするのに。でも、のりはそんな風には、思ってへんよな。今日は、三沢さんの事で、悩み事がプラスされたし。うちらがカモフラージュをやめて、すぐにのりが三沢さんと付き合った場合、綾子は姉ちゃんを泣かせたなと、のりの家だけやなく、彼女の家に乗り込むに違いない。仮に、三沢さんに綾子の事を説明して、うちとカモフラージュを解消せんと、ふたりが隠れて付き合ってるのが見つかった場合は、二股したやろって、乗り込むやろうし…。どちらにしても、のりは綾子に呪われる。三沢さんは、うちらがカモフラージュって知らんし、もしものりに告白して付き合うようになったら、別れて欲しいやろうけど…その時は、やっぱり綾子の事を説明して、カモフラージュを続けた方がええんかな。何回も同じような思考が、頭の中で、ぐるぐる回る。三沢さんが、のりを好きかどうか、わからへんし、のりが三沢さんを好きなわけでもないのに、なぜかふたりが付き合う事が前提になっている。その晩、布団の中にもぐってるのに、全然寝られへんで朝を迎えた。


 「おはよう。純子。大丈夫か?」

 いつもの待ち合わせ場合に行ったら、のりがうちの顔を見るなり、駆け寄ってきた。

 「おはよう。のり。大丈夫やで。」

 「顔色、悪いで。休んだ方が、ええんやないか。」

 「ほんまに大丈夫やから。学校行ってしんどかったら、自習の時間、保健室で寝かせてもらうから、安心して。」

 今日の4時間めの授業が、先生がお家の都合で休まれる為に、自習になる。

 「そうか。無理したらあかんで。」

 「うん。」

 うちらは手を繋いで、歩きだした。のりはずっと心配そうにうちをちらちら見ている。うちがにっこり笑って見せたら、安心したのか、やっと前を向いた。うちに気を使って、ゆっくり歩いてくれたから、学校に着くのが、いつもより10分遅かった。

 

 しんどかったら、自習時間に保健室で寝かせてもらう…。のりが心配そうに、うちの方を何度も振り返っていたから、朝言った通りそうさせてもらった。隣の席に座っている三沢さんも、うちを見るなり「お体、大丈夫ですの?」と心配そうに聞いてきたから、よほど顔色が悪かったんやろうなあ。だから、朝にのりに言った言葉を、そのまま三沢さんにも伝えた。


 うちは、保健室に行って、ベッドに入り、それから後の記憶が途切れた。そのまま熟睡してしまい、起きた時には、お昼休みやった。1時間やけど、良く寝れたなあと思いながら、転んだまま、ゆっくりと周りを見る。…うちの枕元にはのり、足元には三沢さんが椅子に座っていた。うちは思わず飛び起きた。

 ふたりは同時に立ち上がって、うちに向かって笑いかけた。

 

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