第23話 敏江の呼び出し

 三沢さんが転校してきてから、1ヶ月がたち、10月になった。あれからうちはなるべく三沢さんといるようにしていた。引越してきたばかりでは、不安やろうと思うし、天使のような美貌や。クラスの男子がチヤホヤするから、女子にも妬まれ始めて、言いがかりをつけられたりしていたから。そんなん、三沢さんが悪い訳でもないのに。そういう子らは、自分も男子にもてたい気持ちがあるんかなあ。好きな人がその男子の中にいる場合やったら、理解できるけど。でも、みんながみんなそうじゃないやろう。好きな人がいなくても、三沢さんをなじる人の気持ちは、ようわからんわ。うらやましい気持ちの裏返しかもしれんけど、自分では、きっとそんな事に気づいてないやろうなあ。自覚があったら、そんなつまらん事せえへんやろうし。その子にも、三沢さんにないええところがあるやろうに。自分を卑下してるなんて、もったいないなあと思う。


 「なあ、純子。」

 放課後、うちが帰ろうと席を立った時、違うクラスの敏江が教室に入ってきて、話かけてきた。中学生時代の友達。中2の頃、わがままばかり言って、困らせられたけど、いまではええ友達になった子や。

 「敏江、久しぶりやな。どうしたんや?」

 敏江はチラッと三沢さんを見てから、うちの手を引っ張った。

 「ちょっと来て!」

 「敏江!!そのセリフは引っ張る前に言うもんやで。」

 「順番なんか、どうでもええねん。はよおいで。」

 うちは引きずられるように、敏江に引っ張られる。

 「三沢さん、また明日な。ばい、ばい。」

 「中村さん、また明日。さようなら。」

 三沢さんはにっこりして、うちを見送ってくれた。


 「松山、おらんのか。」

 「今日は、クラスの代表で、会議にでてるんや。遅くなるから、先に帰ってなって、言われてるんやけど。」

 「そうか、それやったら、よかった。」

 「どうしたんや。」

 うちは教室から少し離れた誰も通らない廊下に、敏江と一緒に立っていた。

 「どうしたもこうしたもないわ。純子、松山とあんた大丈夫なんか…。」

 「大丈夫なんかって…うちとのりは、相変わらずラブラブやで。」

 「ほんまに?」

 「ほんまや。敏江に嘘つく必要ないやん。」

 これがもう既に嘘やけど。うちらがカモフラージュって事は、みんな知らんし。

 「そうか。それやったらええわ。あの噂が気になって、純子に直接聞こうと思っただけやから。」

 「噂って…どんな噂や。」

 敏江はちょっと、顔をそむけた。

 「敏江、なんかまずい事なんか?」

 敏江はうちの方をチラッと見てから話を切り出した。

 「…純子、思い切って言うわ。転校生が松山ばかり見てるって。狙ってるんやないかって、みんなゆーてる。あたしも、あの子が松山を見てたの偶然目撃したんや。松山の事、じっと目で追ってたんやで。」

 「三沢さんが、のりを?まさか。それいつの話なんや。」

 「この間の選択教科の時。あの転校生もあたしも、松山と同じ音楽取ってるから。」

 うちの学校は、情操教育の為、音楽、美術、文学に、特別に力入れてる。音楽や美術では、より専門的な腕を磨いたり、文学では文章力、読者力を勉強する。うちは美術を選択しているから、その時は教室が別や。

 「三沢さん、人見知りするから、のりに頼ってるだけやと思うで。」

 そう答えながら、三沢さんが、初めてのりを見た時の事を思いだした。

 「優しそうな方ですのね…。」

 あの時はその言葉を、普通に聞いていたけれども…。三沢さんは、のりだけを、じっと見ていた。だけど、もしも、あの瞬間に、一目惚れしていたとしたら…。うちは少し目まいがした。

 

 「純子、どうしたん。大丈夫か?」

 「ごめん。大丈夫やで。最近、寝不足やからな。」

 「そうなんか。大変や。倒れたらまずいから、あたしが松山の代わりに、家まで送っていくわ。」

 「ええで、そんなん悪いやん。」

 「純子を1人で返して、もしもなんかあったら、松山に怒られるし。あたしが呼び出したのは、みんなに見られてるからな。いやがられても送り届けるで。わかったな。」

 敏江の言葉にうなづいて、うちは一緒に歩きだした。

 三沢さんが、ほんまにのりが好きやったら…あんなに可愛い子に好かれるなんて、のりが羨ましい…。うちはちょっとだけ、のりに妬いてしもうた。

空を見上げたら、燃えるような夕焼けが眩しかった。


 

 

 


 

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