第22話 憲武のジェラシー

 放課後になって、のりがうちの席まで歩いてきた。

 「純子、帰ろうか。」

 「うん。」

 うちが立ち上がった時、突然、三沢さんが話しかけてきた。

 「中村さん、松山君、今日はいろいろとありがとうございました。いろいろおふたりの事を聞いて、ごめんなさい。」

 今日、うちは先生に頼まれて、三沢さんに学校のガイドをしていていた。お昼ご飯は、のりに来てもらって、3人で食堂で食べた。その時、三沢さんは、いろいろとうちらの事を聞いてきた。会った日に共通の話題なんかそうそうないし、クラスの女の子達が、三沢さんに、ふたりはめちゃアツアツやから、あてられんようになんて、言ってたから。食べてる時、場がもたなかったらどうしようとか思ってたから、それはそれで良かったかも。

 「ううん、ちょっと照れくさかったけど、いろいろと話せて良かったわ。学校の事やクラスの子について、何かわからん事があったら、聞いてな。」

 三沢さんは、嬉しそうに笑いながら、

 「よろしくお願いしますわ。」

と言った。

 でた。天使の微笑み。うちの顔は、赤く染まる。

 「あら、中村さん、お顔が赤いですわ。熱があるんじゃありませんの?」

 「ほんまや。大丈夫か、純子。」

 その瞬間、のりがうちの額に、自分の額をつけてきた。うちはまた、顔がさらに赤くなってるように感じた。

 「純子、やっぱり熱あるな。帰ったら今日は寝なあかんで。」

 「…うん。そうするわ。じゃあ、三沢さん、また明日。」

 三沢さんが心配そうな眼差しで、うちを見る。こんな顔も、やっぱり天使みたいや。

 「お大事になさってくださいね。」

 「ありがとう。」

 うちの肩にのりが手を添える。うちはのりに支えられたふりをして、教室を出た。


 「なあ、のり。さっきのあれ、必要やったか。なにもおでこに、おでこぶつけんでも、手でよかったん…」

 うちの話の途中、のりがふーとため息をついた。

 「お前が三沢さんに見惚れてるのを、助ける為やったんやけど。あんな惚けた顔してたら、みんながおかしく思うかもしれへんやろ。」

 「そっか…。なら、ありがとう。」

 のりは俯いて、ポツリと言った。

 「…やっぱりそうやと思った。純子は、長い黒髪で綺麗な女の子、大好きやもんな。だから、三沢さん見た瞬間、なんかライバル心、燃やしてしもうた。純子のテンションもめちゃ高かったし。ふたりで話てる姿見るたびに、はらはらしたわ。」

 「…でも、三沢さんは、大泉さんやないから…。」

 いくらイメージが重なっても、やっぱり違う。可愛いからドキドキするけれど、それが好きと結びつくかどうかは別やと思う。ただ、これから三沢さんを知っていく過程で、好きにならないとは、言えないけれど。


 ふたりの空間に、なんとも言えない空気が流れる。そこに中学校のサッカー部が走り込みで通る。それを自転車で追いかけながら激励するジャージを着た綾子が、うちらに気づいてにんまりしながら去っていった。

 のりは握っていたうちの手を、いつもより強く握りしめた。

 

 

 


 

 

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