第21話 転校生は髪の長い美少女

 いろいろあった夏休みが終わった。うちとのりは、相変わらずカモフラージュの恋人として過ごしていた。告白された事が嘘みたいに、うちらは変わらない。近所では手を繋ぐけれど、遠出したら、距離を保つ。好きとかいう感情が存在しないカモフラージュ。うちはずっとこのままやといいのに、と思い始めていた。のりには悪いけれど、ほんまの恋人にはなられへんな。


 手を繋いだまま教室に入り、みんなにからかわれる。いつも通り、ラブラブやからとみんなの前では、笑える。だけどその後ふたりになったらちょっとぎこちない。これからもそんな日が続いていくのかなと思ってた。うちは席に座る時に、いつもと違う事に気づいた。うちの隣の空間だった場所

に、机が並べられていた。もしかして、入院して休んでいた山口さんが今日から来るのかな。みんなと話しながら、先生を待った。


 授業が始まる前に、先生の後ろから、ひとりの女の子が教室に入ってきた。長い黒髪をなびかせながら、大きな瞳でみんなを見る。クラスのみんなはざわめいた。そりゃそうや。まるで芸能人みたいに綺麗やもん。うちもその美しさに目を奪われた。


「みんな、静かにして。いまから転校生を紹介するから。」

 先生はチョークで名前を黒板に書いて、その子を紹介した。

 「三沢和歌子さんです。今日からこのクラスの一員になります。三沢さん、自己紹介をして下さい。」

 三沢さんは、クラスを見渡してから、なぜかうちに笑いかけた。うちがあんまりじーっと見たせいで、目立ったのかも。

 「三沢和歌子です。家の都合でこちらに引っ越してきました。これからよろしくお願いします。」

 声も可愛らしくて、心地いい。クラスのみんなも見惚れている。全然違うタイプやけど、黒髪が、大泉さんみたいやな。それだけで、うちの心臓は、ドキドキしていた。その三沢さんが、うちのそばまで近づいてきた。近くで見たら、もっと可愛い。うちの隣りに、空いてる机が並べられたのは、その為やってんな。うわっ、うちの鼓動が聞こえたらどうしよう。三沢さんは、うちを見て微笑んだ。

 うちのドキドキは、ますます激しくなってきた。なんて綺麗な子なんやろう…。

 「三沢和歌子です。わからない事は、教えて下さいね。よろしくお願いします。」

 「うちは、中村純子です。三沢さん、こっちの方こそよろしくやで。」

 「中村さん、早速ですが、教えていただけませんか?」

 「うん。ええで。何かな?」

 「あの男の方が、ずっとこちらを向いているのですが…。」

 あの男の方…。うちの席より3つ前の斜めに座っているのりが、後ろを向いて、こっちを気にしている。うちはちょっとドギマギした。うちが三沢さんに見惚れていたのに気がついたんやろうな。

 「あっ、あれな。うちの彼氏やねん。授業中でも、うちらにアイコンタクト送ってきたりするんや。」

 うちはのりに、軽く手を振った。のりは照れた顔をして、前を向いた。

 「あの方が…中村さんの…。優しそうな方ですのね。」

 三沢さんはまるで、天使のような微笑みをうちに向けてきた。クールな大泉さんとは全く違うタイプやのに、なぜかイメージが重なり、うちの鼓動がますます加速していく。


 突然、外から雷の音がした。降り出した激しい雨。うちとのりの関係は、同じままでは、いられないかも…と、その時に思った。

 

 

 

 

 

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