第19話 憲武の告白

 「あーあ、昨日は、大変やったなあ。」

 昨日の事を思いだしながら、うちは、布団から出られずにいた。


 のりと一緒に水族館から帰る途中、駅のホームで電車を待っていた。ところが踏切事故で電車が止まってしまって、なかなか帰られへんかった。遅くなるから、のりに携帯で家に連絡してもらったけど、のりが顔を赤くして目が点になってたから、換わってもらった。綾子がわたしの声を聞くなり、『姉ちゃん、まだ3ヶ月ちょっとしか付きおうてへんねんから、泊まりはあかんからな。ちゃんと帰ってくるんやで。電車動けへんかったら、タクシー使いや。』と言った。わたしは『うん、電車動けへんかったらそうするわ。』と答えた。

 のりは赤い顔のまま、うちの顔から目をそらして、電車が来ないホームを見ている。綾子に何を言われたのやら…。うちと同じような内容やろうけれど、のりはもっといろいろ言われたんかも…。


 地元の駅に着いたのは、夜の10時すぎだった。ほんまは8時半には戻って、駅前のファミレスで、ご飯食べるつもりやったのに。駅の改札をでてから、のりが言った。

 「純子、ご飯食べに行くで。」

 「えっ、でも、もう10時過ぎてんで。あんまり遅くなったら、綾子がうるさいと思うし。」

 「大丈夫や。純子のお母さんに許可もらってるから。」

 「えっ、いつもろうたん。」

 「さっき、純子がトイレ行った時。家族は心配やろうから電話したんや。俺が家まで送る事を伝えたら、お母さんが、『ふたりとも、お腹すいてるやろ。今日中に送ってくれるのなら、予定通りにご飯食べてから帰ってきていいから』って。」

 そういえばお母さんに、こっちに帰ってからファミレスに行くから、と伝えてたな。お母さんが許可してくれたんなら、時間さえ守ったら大丈夫や。

 うちはのりと一緒に、もとから寄るつもりやったファミレスに行って、ご飯を食べた。

 家から歩いて10分くらいの場所にあるから、慌てなくてもいい。今日中には、絶対帰れるし。ご飯が終わって、ドリンクを飲んでる時に、のりはうちに、相談したい事があると言ってきた。


 「相談したい事ってなんや?」

 のりは飲んでいたコーヒーカップをテーブルに置いた。

 「実は、いまの片思いの奴の事やねん。」

 「もしかして、ちゃんと告白したんか?」

 「告白するつもりやったけど、向こうは他の奴が好きやから、このまま見てた方がいいのかなとか、思い始めたりしてるねん。」

 「そうか…。辛いところやな。」

 「もし純子なら、こんな時は、どうすると思う?」

 「そうやなあ。うちは自分が告白する以前に振られてるから、なんとも言われへんけれど…。いまちょっと後悔してるかも。」

 うちはストロベリージュースを一口飲んでから、のりを見た。

 「ちゃんと告白はしといた方が良かったかなあって。うちは同性が好きな事で、気味悪がられたくなくて、怖くて告白ができひんかったのに、おかしいと思うけど。」

 のりはまっすぐうちを見た。

 「告白した方がええと思うか?」

 「そうやなあ。振られるかもしれんけど、それで相手があんたを意識するようになるかもしれんしな。」

 「純子の言う通り、その方が後悔せえへんかもしれへんな。じゃあ、やっぱり告白するわ。」

 「がんばりや。うちも応援するで。」

 それからうちらは、11時半前にファミレスを出て、家に向かった。ふたりとも何も言わずに、夜の街を歩いた。ぽつぽつ光る灯りが綺麗に見える

 家に着くちょっと前、うちらは夜空を見上げて星を見た。


 「純子、今日はありがとうな。」

 「こっちこそありがとうやで。じゃあ、明日は図書館で。告白、がんばりや。」

 「ああ…。」

家まで走ろうとした時、のりがうちの手をつかんだ。びっくりして、のりを振り返る。

 「なんや、のり?」

 のりは、うちの目を見ながらはっきりと言った。

 「俺は純子が好きや。このままほんまに付きおうて欲しい。」

 うちはあまりの事で、言葉がでえへんかった。うちらは同性が好きな同志のはず…。だからカモフラージュで…。赤い顔をしたのりに、驚いた顔のままのうち。そばを走り去る車の音。時間がスローモーションで流れていく。


 しばらくしてから、うちの家の玄関が開いて、お母さんがでてきた。時間が普通に動きだす。のりはお母さんに、頭を下げてから、うちの背中を押しながら、呟いた。

 「返事は急がへんから。じゃあ、明日、図書館で。」

 のりは、きびすを返して、走り去った。

 「お帰り、純子。彼氏ちゃんと送ってくれたんやな。時間内に帰らんかったら、綾子が騒ぎだすとこやったわ。名残惜しいかもしれんけど、はよ家に入りや。」

 お母さんはのりを見送るうちにそう言いながら先に家に入った。

 のりの突然の告白に、うちはしばらくその場から、動かれへんかった。やっと気持ちを落ち着けて家に入った時には、12時をとっくにまわってた。


 うちは、どんな顔をしてのりに会えばいいのか…。布団をかぶったまま、動けない。お昼過ぎの約束やから、時間はまだあるからええけど、どうしよう。まさか、こんな事になるなんて…。うちは布団の中に潜り込んで、ダルマのようにまるまった。


 

 


 


 

 



 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る