第18話 水族館の1日

 7月の後半、夏休み。うちとのりは、計画通り、日曜日と月曜日に出掛けた。日曜日は映画とか遊園地、百貨店など少し遠出するけど、月曜日は図書館とか、駅前の喫茶店など地元の近場で済ます。予算との折り合いがあるから遠出ばかりはできひんし。バイトしてるからと、のりが多めにだしてくれるけど、本物の彼女やないし、しょっちゅうやったら気がひけるからな。

 

 今日は日曜日やから、少し遠出の日。宿題の自由研究の為、水族館に行く事にした。これがほんまのカップルやったら、ムードもなにもないよな。まあ、それでも楽しいかもしれんけど。これが大泉さんとやったら…そう考えたら、宿題の為でもやっぱり嬉しいと思うやろうな。振られて以来、廊下ですれ違いくらいしかせえへんし、全然遊ばなくなったけど。たまに思い出したら、やっぱりセンチになってまうな。あれこれ考えてたら、もう8時や。待ち合わせの時間が近づいている。またのりを待たせてまうから、早く出ないと。

 「姉ちゃん、今日は出掛けるねんな。好きすぎて、松山さんを襲ったらあかんで。」

 うちは、綾子に笑いながら、急いで家をでた。ほんまの彼氏じゃないから、それはないわ、心の中で返事した。


 水族館についたうちとのりは、早速休憩してしもうた。ここまで来るのに、約2時間弱かかったから、ちょっとしんどい。電車も3回乗り換えたし、駅から駅までの移動も距離があった。時計を見たら、10時半やった。

 「大丈夫か、純子。」

 「うん。ありがとう。」

 水族館の受付のそばにある椅子に座って、のりがジュースを渡してくれた。うちを気遣うのり。周りから見たら、ラブラブカップルにみえてるのかも。うちらは30分程、そこに座って、大きなスクリーンに映し出されていた、水族館の1日というタイトルの番組を見ていた。


 水族館に入ったうちらは、順番に通路を歩く。かなりの広さなので、見応えがある。

 自由研究の目的を思い出して、のりに携帯で写真を撮ってもらう。光が嫌いな魚もいてそこは撮影禁止やから、頑張ってうちがスケッチした。薄暗いから、ちょっと大変やったけど。のりはその絵を見て、めちゃ感心していた。こんな所で、描けるんやと。のりは絵を描くのは、苦手なんやって。それが終わってから、2時過ぎに、水族館の休憩所に行ってお茶を買い、家で作ってきたおにぎりを軽く食べた。それからはずっと水槽の周りを歩き回った。


 水族館をまわり終えた時は、6時やった。もう水族館も閉まる時間や。夏やから、外はまだ明かるい。

 これからまた2時間かけて帰るのかと思えばちょっとぐったりしてもうた。のりが笑いながら、ジュース渡してくれて、「いまはそれで我慢してや。ここは家まで遠すぎやし、メシは初めに決めた通り地元に着いてからな。」と言った。お腹空いてぐったりしてると思われたんやな。でも、言い返す気力もないうちは、その言葉に黙ってうなずいた。

 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る