第17話 純子の悩みは続く
7月の期末テストが終わった。うちものりも野村君のおかげで、クラスの平均点は取れていた。補習なしの夏休みが迎えられて、嬉しい。テストは野村君の予想した問題がばっちりでてた。なんでわかるのか聞いたら、授業中の先生の声のトーンとかでわかると言っていた。重要な話をする時と、さらっと授業を流す時では違うんやって。うちには同じに聞こえるけれど、野村君には、わかるねんな。すごいなあ。うちは心から感心した。
夏休みに入る前の下校時に、うちとのりはハンバーガー屋さんに入ってジュースを飲んだ。その時に、夏休みの7、8月に会う日を決めた。基本は日曜日と月曜日。あとの平日は、のりが夏休みのバイトに行くから、シフトで休みになった日があれば、たまに会うふりをするという事で話がついた。綾子は、部活で忙しいから、夏休みはあまり家にいないし、適当に誤魔化せるやろ。他の友達とも会いたいとも思っていたから、ふたりで会うのが毎日じゃない事にほっとした。うちらはカモフラージュカップルやから、そう思うのもしょうがないわな。でも、世間のラブラブカップルは、毎日でも逢いたいんやろうな。
うちはライムソーダを飲みながら、目の前に座ってるのりを見た。のりは、いつ片想いの人に会いにいくんかな。もしかして、うちと会うふりをするバイトのシフトが休みの時かも。その時は応援したらなあかんな。相手はどんな子かなあ。もしかしたら、うちの学校の男子の中にいて、知ってたりして。考えたらなんだかドキドキしてきた。もうすでに妬かれてたら、どうしよう。…のりは向こうは好きな人がおるって言ってたけど、実は相手ものりが好きなのに素直になれないとか…。うちの事を本物の彼女やと思ってたら、それはあり得るかも。その人にだけは、うちらはカモフラージュですって、伝えた方がいいんかもな。いろいろ考えてたら、のりが話しかけてきた。
「なあ、純子。この間の話やけど…。」
「この間の話ってなんや。」
「ひろ…野村の事やねんけど…。」
「ああ、どう思うか聞いてたな。それがどうしたん。」
「お前の目から見て…いや、女子の目から見たらええと思うか。」
「女子の目で見て?うーん…。うちが好きになるのって女の子ばかりやから、前にもゆーた通り考えた事ないねんけど…。人の事よく見てて、親切やしええんやないかな。どうして、そんな事聞くんや。」
「ひろはな…。…明るくてええ奴やのに、なんで彼女できひんのかと思って。だから、女子の目で見たら、どうかなと思ったんや。」
「それ、野村君が彼女作れへんだけやないかなあ。実際、野村君を好きな女の子っておるし。」
「そうなんか。」
「うちが野村君と話してたら、誤解されたんか、会うたびに、睨んできた女の子もおってな。のりとカモフラージュしてからは、ましになったけど。後で友達に聞いたら、あの子は、野村君が好きなんやでって、教えてくれたわ。中学時代、チョコレートもよーさんもらってたし。」
「…そうなんや。それなら良かった。ほんまにええ奴やのに、なんで彼女おらんのか、ちょっと不思議やったから。成績優秀やし、顔も悪くないし、運動神経もええから、もてないわけないのにと思って。俺は中学は違う校区やったから、一緒におらんかったし。何かあったのか、心配したわ。」
「そうやな。言われてみたら、うちが普通に男子が好きやったら、野村君、好きになってたかもな。サッカーしてる時、かっこええし。」
「そっか…。純子は、同性が好きやのに、男子がカッコよく見える事はあるんやな。それ聞いたら、ひろ、喜ぶと思うわ。」
のりはアイスコーヒーをストローでかき回しながら、もう片方の手で頬杖をついた。
のりは最近、やたらと野村君の話をする。前以上に増えてきた。もしかして、のりの好きな相手って…。あんまり身近すぎて、思いつかへんかったけど、松山君かな。
突然の思いつきに、うちは少し呆然としてしもうた。もしそうなら、綾子を誤魔化す為に、カモフラージュはやめたくても、やめられへんかもしれん。うちとの関係が解消してから、甘々な雰囲気で、のりと松山君ふたりが歩いているのを、もしも、綾子に見られてしもうたら…。ふたりとも、呪われるだけや、すまへんかも…。うちはクーラーがきいている店内で冷汗をかいた。
のりが好きな人が野村君じゃありませんように。うちは心からそう祈った。
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