第16話 野村君の想像
彼と別れてからのりは、時々うちと休日を過ごす事になった。綾子に不審がられないように、2人で話し合ったんや。のりが彼に会いに行ってたのは日曜日。土曜日は交通費を稼ぐ為に、バイトしていた。辞めようかと思ったみたいやけど、当分バイトは続ける事に決めたんやって。だからうちと会うのは日曜日。
綾子にいろいろと調べられたら、やっかいやし、デートしたという事実を作らなまずいと思う。違う学校のいじめについての証拠を集めたくらいや。うちらがほんまは、デートしてなかった事なんか、嗅ぎつけてしまうかもしれんし。
のりとうちがもし、本当は付き合ってなかった事がばれたら、それはそれで怖いしな。でもその場合でも、のりがうちに嘘をつかせたと怒って、家に乗り込むやろ。
うちに好きな人がいまおるわけでもないし、もしものりの好きな人と思いが通じた時には、うちらがカモフラージュやと、その人には、ばらしたらええ。のりの元彼は、自分もカモフラージュしてたから妬かへんやろうけれど、その人はどうかわからん。向こうがそれが嫌やと言った時には、関係を解消する。そのタイミングは、うちの事情で選ばしてもらわな困るけど。のりが綾子に、呪い殺されるかもしれん事を説明したら、きっと承諾してくれるに違いない。
うちらがデートしてる証拠写真を、のりの携帯で撮り、それをプリントしてもらって、嬉しそうに綾子に見せると、満足そうにうなづいている。こんな時の妹は、めちゃ無邪気で可愛い。綾子を怒らせたくない気持ちよりも、がっかりさせて、悲しませたくない気持ちが大きくなってきた。もしものりとのカモフラージュを解消しても、しばらくは別れたとは、よう言わんやろうな。
7月すぐの日曜日。中間試験があるからという理由で、遊びにいかんと、図書館に勉強に行った。今日は写真は写さなくてもええから気楽やな。のりもうちも、勉強しに行くというのに、いつもよりテンションが高かった。
「のり、中村、おはよう。」
野村君が、声を掛けてきた。
「ひろ、朝から来てもらってごめんやで。今日はよろしくな。」
野村君は、中学時代から成績が優秀で、たいがい1番やった。高校も主席で入り、入学式に新入生代表の挨拶したくらいや。今日はうちらの先生として来てもらった。
野村君はにやりと笑って、のりの肩に手を回す。
「ああ、気にすんな。今日はオレが、のりにテスト問題、ご馳走するわな。赤点採って補習になったら、中村とデートが減ってまうやろうし。」
野村君は今度はうちを見ながら笑った。
「それに…。のりにオレが勉強教えたのに赤点採らせたら…。」
野村君が俯いて呟いた。
「あやちゃんに、睨まれる…。」
「野村君…綾子になんか言われたんか。」
「…。お前、あやちゃんに、3人で勉強するって話をしたんやろ。昨日、スーパーでたまたま会ってんけど、その時に、お願いされてん。『先輩、松山さんに赤点採らせないように見てあげて下さいね。』って。目がめちゃ光ってた…。あれはお願いというより、命令みたいやったで。」
松山君は遠くを見て、ため息をついた。
「中村、オレ、昔からから思ってたんやけど、あやちゃん、実は年齢サバよんでるんやないか?オレの推理では、どこかの組織に、なんかの薬を飲まされて、子供になった過去があったりするんやないかと思うんやけど。」
「野村、それ、漫画の読みすぎやろ。」
「でも、あやちゃんならあり得る。あの鋭い瞳は、普通の中学生やないで。」
「それも、そうかも。」
うちは、ふたりの間に挟まれて、苦笑いしてもうた。綾子、まさか自分がネタになってるなんて思わへんわな。
うちらは図書館で野村君に試験にでるような所を聞いて、そこを集中して勉強した。そのへんの先生よりわかりやすくて、助かった。
「あんまり詰めたら、覚えたところ抜けてまうから、休憩せなあかんで。」
そう言って、野村君は用事があるからと、先に帰っていった。
のりとうちは、それから1時間後、図書館を後にした。
帰り道を歩いてる時、のりが突然、野村君について聞いてきた。
「なあ、純子。ひろって、どう思う?」
「どう思うって…。考えた事ないからわからへんわ。なんで?」
「実はな…。」
のりは何かいいかけて、途中で黙り込んでしもうた。
「また今度でええわ。」
夕方だけど、空はまだ明るい。うちとのりは公園のベンチに少しだけ座って、缶コーヒーを飲みながら、帰るまで他愛ない話をして過ごした。
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