第15話 カモフラージュが解消できない事情

 次の日、うちとのりは、いつもの場所で、待ち合わせして、学校に行った。

 「おはよう。純子。」

 「おはよう。のり。待った?」

 「いや、いま来たとこや。」

 いつもと変わらないシチュエーション。

 のりがいつもと同じ笑顔やったから、安心した。


 あの後、カモフラージュの解消した方がええかと思って話をしてた時に、綾子が帰って来た。

 のりの顔を見た途端、びっくりしていたけれど。そして笑顔でこう言った。

 「わざわざ姉の顔を見に来て下さってありがとうございます。姉を泣かせたと思ったのは、勘違いだったみたいですね。疑ってすいません。これからも姉をよろしくお願いします。」

 のりは綾子の言葉にたじたじやった。

 「学校休んでまで姉ちゃんが気になって会いに来てまうなんて。ラブラブすぎるような気もするし、世間的にはアウトやと思うけど、うちは、姉ちゃんが幸せやったら、それでええねん。姉ちゃん、よかったな。松山さん、もしも姉ちゃんを泣かせたら…。」

 綾子の目が怪しく光る。もしもうちらが、このままカモフラージュを解消したら…。うちが泣かされたと誤解した綾子に、のりが呪い殺されるっ!!

 とにかく綾子に、うちらがラブラブなところを見せとかなあかん。

 「のり、もうそろそろ帰らな。下校時間終わってるから、誰にも会わへんと思うで。」

 「ああ、そうやな。純子、病人やのに、長居してごめんやで。」

 「そしたら、のり、明日いつものところで待っててな。」

 カモフラージュの解消の話をしたばかりなのに、明日の待ち合わせの話をしながら、手を握るうちの動作に、のりは一瞬、慌てた。だけどうちの目配せで、気がついた瞬間、手をぎゅっと握り返す。それを見ていた綾子の顔をチラッと見たら、赤くなっていた。良かった。こういうところは、普通の中学生やねんな。

 「ああ、純子が来るまで、ずっと待ってるからな。でも、来られへん時は、心配やから電話くれよ。綾子ちゃん、今日は純子が休む事を、教えてくれて、ありがとうな。休日やないのに、朝から晩まで、純子と一緒におられて嬉しかったわ。」

 綾子は満足そうにうなづいて、キラキラした瞳でうちらを見ていた。


 そんな経緯があったから、カモフラージュの解消は、もう少ししてからという事になった。それに4月から約3ヶ月しか付き合ってないとなると、綾子が怖い。「うちの姉ちゃんを、もてあそんだんか!」とか言って、のりの家に押しかけそうや。いや、きっとのりの家族に話に行って、文句言う。そういえば、過去にも、そんな事があった。


 うちが中学一年生の時、ある女の子が、うちをいじめてたという証拠を持って、綾子は先生と一緒に家庭訪問した。そして、見事な口上で相手の親を泣かせたらしい。その晩、電話があって、家族で謝罪に来た。次の日から、その子は、うちをいじめなくなった。それから後、先生も家に来て、お礼を言われた。その女の子の事は、問題になっていて、先生も何度か親に話したけれど、うちの子がそんな事するわけない、向こうが悪いと相手にされなかった。先生は鬱になってお医者さんに通ってたらしい。学校に辞表を提出する手前だったと。泣いて頭を下げる先生を見て、綾子は、ちょっと涙ぐみながら、『お役にたてて、良かったです。これからも姉をよろしくお願いします。』と言って笑った。あの時、綾子は小学5年生。大人を泣かせて反省させたり、立ち直させて感謝されたりするなんて、凄すぎる。

 それにしても、綾子は小学生やったから、同じ学校に通ってないのに、なんでうちがいじめられてる事がわかったんやろう。どうやっていじめの証拠なんて集めたんやろう。うちは綾子に聞いたけれど『それは秘密や。』と笑って教えてくれなかった

 綾子なら、のりの家に間違いなく押しかける。まさか、こんな事で、関係が解消できひんなんて、夢にも思わんかったわ。


 今日もまた雨が降ってる。梅雨はまだ始まったばかりやのに、はやく終わらないかなと思いながら、門をくぐった。


 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る