第13話 綾子の機転

 うちはあれから、布団の中で、ずっと寝転んでいた。病人やから寝てるのが当たり前やけど。何かしようとも思えずに、ぼおうとしていた。のりから連絡がなかったのが、ちょっと心配やったけれど。

 ほんまにのりは、大丈夫やろうか…。ふと大泉さんに失恋した時の自分を思い出しながら涙がでてきた。失恋した日は自分も泣いたし、辛かった。あまり考えないようにしてたけど、振られたのに、大泉さんが好きだと思う自分がいまでもいる。うちが毎日めそめそしないで済んだのは、のりがいてくれたからや。

 カモフラージュの恋人。まわりに付き合うてる事を不審に思われへんようにあれこれ考えなあかんかったから、考えずに済んでた。

 うちがのりに出来る事は、ないんかな。布団のそばにある目覚まし時計を見たら、10時過ぎ。風邪引いてるねんから、寝なあかんな。そんな事考えてたら、突然電話が鳴った。


 「はい。」

 うちは、電話にでた。今日は、日曜日やないから、居留守使わなくてもええ。

 「…。」

 電話の相手は無言やった。もしかして、うちの声が向こうに聞きとられへんのかな。

 「もしもし…。」

 うちは何度か繰り返したけど、反応がない。

 「ごめんなさい。そちらの声が聞こえないので、電話きりますね。」

 「…純子、寝てたんやったら、起こしてごめんな。」

 聞こえてきたのは、のりの声。

 うちはびっくりして、すぐに言葉がでてこない。数秒してから、やっと一言。

 「のり、大丈夫か…。」

 「…それは、俺が言う言葉や。今日、学校休んでるやろ。」

 「言われてみたらそうやな。…のり、いま授業中やないんか。」

 「ああ、お前が休むって聞いたから、俺も風邪引いた事にして今日も休んだんや。」

 「えっ、誰から聞いたんや?うち、学校以外は、連絡してへんで。学校に行かな、わかれへんやろ。」

 「待ち合わせ場所にいたら、お前の妹が来て、教えてくれた。『もしかしたら姉は、熱で連絡できないかもしれませんので』って言ってたで。」

 うちは、のりの話をしても、家族には会わせた事がない。だから綾子は、うちが心配で、学校に行くふりして、うちの後をつけて、待ち合わせ場所にいるのりを確認したと話していた事があった。それからうちらの後を歩く野村君をつかまえて、いろいろ聞いたらしい。野村君は、うちとは中学時代の同級生やけど、綾子にとっては、部活の先輩や。『姉はお人好しですぐだまされるから心配で…。』と言った綾子に、『あやちゃん、のりはええ奴やから安心しなくても大丈夫やで。』とお墨付きをもらったから、ほっとしたって。


 「純子が休むと俺に教えてくれた後、『姉は夢であなたの名前を言って、うなされてました。何があったか知らないけれど、泣かせたら、許しませんから』と言ってたわ。野村から、妹はしっかりしてるとは、聞いとったけど、想像超えたしっかり度やったわ。しゃーから俺、純子に、ちゃんと話さなあかんと思ったんや。」

 「のり、ごめんやで。綾子が生意気な事言って。」

 「謝る必要ないやんか。その発言は、お前が心配やからやし。ええ妹がおって、純子は幸せやな。」

 「うん。うちもそう思う。」

 うちはのりと普通に喋れてほっとした。

 「そういえば、のり。雨の音聞こえるで。いま外やろ。携帯代、高いのに大丈夫か。」

 「ああ、話すの長なったらと思って、公衆電話からかけてるから、大丈夫やで。」

 「ふーん。いまどこにおるんや?」

 「純子の家の近くにある電話ボックス。」

 うちは慌てて、カーテン開いて、窓の外を見た。電話ボックスの中にいるのりの後ろ姿が見える。

 「のり!!そんなとこいたらほんまに風邪ひくで。学校サボってるんの見られたらあかんやんか。それやったら、家においで。」

 うちは思わず叫んでしまった。


まだ雨はやみそうにない。

 

 

 

 



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る