第12話 うちよりしっかりしている妹

 梅雨入り宣言された日、学校で倒れたうちは、放課後に妹が迎えに来てくれて、一緒にタクシーで帰った。

 妹、綾子が迎えに来た時、先生は制服を来た他校生が勝手に入り込んだと思い、注意していた。でも綾子は、先生にちゃんと挨拶して、生徒手帳を見せて名乗り、母から連絡をもらい、うちを迎えに来た事を伝えた。中学生とはいえ、保護者の代理だ。先生はすぐに、『申し訳ありませんでした。』とていねいに謝り、綾子は『先生なら、怪しい他校生を注意するのは、当たり前の事だと、理解していますから。』と、笑った。これがうちやったら、先生に注意されたら、あんな風にはすぐに切り返されへんやろうな。中学生やけど、うちよりしっかりしてると思う。


 家に帰って安心したのか、布団に入った途端、うちは熟睡してしまった。その晩は、雨が降り続けて、のりが空を仰いでる夢を見た。うちはのりを励まそうと駆け寄るけれど、なぜかいつまでもその場所に、たどり着けなくてのりの名前を呼びながら、泣き叫んだ。

 

 次の日、うちの熱はまだ下がらなかったので、学校を休んだ。はやく会社に行った母の代わりに、妹がお粥を作ってくれた。綾子はうちの顔を覗こんで言った。 

 「お姉ちゃん、昨日うなされとったけど、大丈夫か?」

 「うなされてた?」

 「そうやで。一晩中、ずっと彼氏の名前呼んでたで。なんかあったんか。」

 とりあえずは、こそこそして、心配かけたらあかんから、家族に付き合ってる事は言ってある。もちろん、カモフラージュと言う事は、隠してるけれど。

 うちは慌てて、首を振った。

 「なんにもないで。うちとのりは、ラブラブやもん。」

 「それやったらええけど。まあ、夢に見るくらい好きって事なんかな。」

 綾子はにやりとしながら、生意気な事をさらっと言った。

 「今日はゆっくり寝ときや。学校終わったら、うちも早よ帰って、姉ちゃんにまたお粥作るから。あっ、彼氏には学校休むって、ちゃんと連絡せなあかんで。いつも待ち合わせして、一緒に行ってるんやから。」

 綾子は、そう言い残して、急いで家を出ていった。

 妹の言う通り、うちはもしかして、のりが待ち合わせ場所におるかもしれんなと、携帯に電話かけなあかん…と思ったけれど、昨日の事を思い出したら、なんて声かけてええんか思いつかんかった。ただ、風邪ひいたから休むと言うだけでええから電話かけなと、自分に言い聞かせた。でも、やっぱりかけられへん。だから、もしも、待ち合わせ場所で待ってて、うちがけえへんかったら、のりの方から、かけてきてくれるわ。勝手にそう決めつけて、布団の中にもぐった。


 今日も朝から、激しい雨が降っていた。



 

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