第11話 降り続く雨の音

 のりが走り去った後、ずっと雨に打たれたいたうちは、学校に着いてから、ぬれた服を体操服に着替えて、授業にでた。

 やっぱりのりは、教室にいなかった。めちゃショックやったんやろうな…。あんなにラブラブやったのに。のりの心を考えたら、なんだか目が潤んできた。それだけじゃなく、だんだん頭までズキズキしてきた。

 「中村さん、顔色が悪いけれど、大丈夫ですか?」

 先生がうちに話しかけてきた時、はいと答えようとしたけれど、声がでなかった。中村さん、中村さんっ!〜先生の呼ぶ声に、友達のざわめき。遠のいていく意識。気がついた時は、保健室で横になっていた。びっくりして、飛び起きると、保険医の先生が、うちの顔を覗き込む。

 「気が付いてよかった。少し熱があるからお家の人が来るまで寝ていてね。わたしは、隣の部屋にいるから、何かあったら呼んでちょうだい。」

 先生はそう言って、去っていった。


 休み時間、保健室に野村君が来た。

 「中村、大丈夫か。」

 「ありがとう。油断して傘持ってけえへんかったから、風邪引いたみたいや。」

 「そうか。でも、いきなり倒れたから、心配したで。意識戻ってて、よかったわ。」

 

 それからしばらく、他愛のない話をしてから、野村君は、用件を切り出した。

 「病人にこんな事聞いてもええんか迷ったけど、もしも知ってたら教えてくれ。のり、最近しんどそうやったけど、ずっと具合悪かったんか?」

 確かに具合悪いやろうな。何が原因かはしらんけど、あんなに仲よかった恋人と別れ話しなんかしたんや。ええわけないわな。

 「うん。ずっと体調が悪かったみたい。うちに何も言わんかったけど。」

 「そうか。のりらしいな。お前に心配かけたくないから、言われへんかったんやろうな…。あっ、休み時間終わるから行くわ。大事にしいや。」

 「ありがとう。」

 のりとうちが一緒にいたのは、今日は誰にも見られてへんかったみたいやな。その事に、少しほっとした。あんなところを見られたら、言い訳が大変やろう。うちを力強く抱き締めて走り去ったのり。一体、彼との間に、何があったんやろう。

 この3週間に見たのりの様子を思い出して、ため息がでた。それから思ってた通り、やっぱり涙がでてきた。のり、いまめちゃ、辛いよな。カモフラージュは、もう必要なくなるかもしれん。でも、それが終わっても、うちは、のりの親友やで。

 うちは雨の音を聴きながら、ここにいないのりに、心の中で、話しかけた。涙が溢れて止まらない。いま、教室でなくてよかった。ひとりなら、好きなだけ泣けるから。


 今日の雨は、やみそうにない。



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