第7話 憲武の恋人

 あれからうちとのりが毎日一緒にいるから、うちらは、自然に、みんなの公認のカップルという事になった。

 休みの日は、デートしてるふりをする。のりが恋人と会う時に一緒に電車に乗って、途中で別れて、うちは1人で映画に行ってみたり、遠くの本屋さんに読書しに行ったり。

 出掛けるのが、しんどい時は家にいて、誰から電話が来ても、出なかったりもする。

 一緒に出掛けてるんやから、電話にでたら、おかしいし。お母さんも、妹も日曜日はおらん事が多いし、居ないと言ってと頼まなくていいから、気楽や。のりが電話掛けてきた時は、コール数でわかるから、大丈夫やし。

 うちと妹は、お母さんから、携帯は、社会人になってからと言われてるから、持ってない。まだ柔らかい脳には、危険だからという理由やと言ってた。みんないまどき…と珍しがるけれど。携帯がなかったら付き合えないなんて子は、本当の友達やないし。携帯を持ってない事を言ったらのりもびっくりしていたけれど、「テレビない家もあるし、それぞれやなあ」言って、笑った。


 うちの日曜日の過ごし方の話を聞いたのりの恋人が、気を使って、時々、美味しいお菓子をくれたりする。自分ではもったいなくて買えないような高級品や。それが届くたび、のりの恋人は、上品で、美人なんやろなあと思う。男子に美人なんて失礼かもしれんけど。

 うちはもらったお菓子をつまみながら、コーヒーを飲んだ。


 月曜日。いつも通り朝の通学路で、のりと待ち合わせて、学校に行く。

 「純子、おはよう。」

 「のり、おはよう。うちより遅く来るなんて、珍しいなあ。」

 のりの方が大概早いんやけど、今日はうちの方が先に着いた。

 「これ忘れたから、取りに帰ってん。今回のお菓子は生ものみたいやから、はよ渡さんとあかんと思って。」

 のりは丁寧に包まれた百貨店の包みをだした。ほんまにようできた恋人や。同じ歳やと聞いたけど、普通はカモフラージュとわかっていても、やきもち妬いて、こんな事まで、気がまわれへんわな。うちは、のりの耳元で、小声で呟いた。

  「ありがとう。だけどのり、気を使わんでええって、彼に言うてな。うちらは、いわゆる同志やねんから、お互い様やし。」

 「ああ、伝えとくわ。」

 その様子を見ていた学校の友達に、からかわれる。

 「純子と松山君、いつもアツいなあ。」

 「そうやろ。うちらラブラブやもん。」

 うちが笑いながら答えて、のりは赤くなって俯くのが、パターンになっていた。

  こんなの見たら、さすがにのりの恋人も気が気でなくなるんやないかな。カモフラージュを終わらせるのは、うちの都合が悪くなるまでという約束やけど、期限決めた方がええかも。この関係が楽しくなってきたから、ちょっと残念な気もするけれど。

 いつの間にか咲き始めたツツジが、時間の流れを感じさせた。

 

 


 

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