第6話 野村君が心配していた理由

 野村君は、うちらを見て、ため息をついて言った。

 「ほんまに付き合ってる事、気付かへんかったで。多分、他のやつらも、そうじゃないかなあ。」

 そりゃ、そうやろうなあ。付き合うふりする事にしたのは、昨日やし。

 「ひろ、黙ってて、ごめんやで。同じクラスやし、照れくさかったんや。」

 「写真も見せてくれへんから、もしかしてやばい相手かと思って心配したんやで。これで、ほっとしたわ。」

 ある意味当たってるわな。本当の恋人は、男やし。

 「俺が紹介せえへんかったから、落ち込んでたんやないんか。」

 「アホ。そんな事で、落ち込むか。オレに紹介できひん理由があったら、親友として、なんて言えばいいか考えとったんや。もしかして、不倫してたらとか、先生と付き合ってたらとか、漫画みたいな事を、想像してもうたやんけ。でも、余計な心配でよかったわ。ほんまに安心したで。中村やったら、中学生の時から知ってるしな。」

 野村君は、それからうちらの話を笑いながら聞いていた。

 

 野村君は、映画を観る為に、先に帰るうちらのご飯代をおごってくれた。のりが払おうとしたら、「オレが無理に誘ったから、今日はええで。それに、のろけを散々ご馳走してもらったから、お返しはしとかな。」と、笑った。松山君は、「じゃあ、いつでものろけをご馳走したるから、これからもよろしくやで。」と言って、野村君に小突かれた。痛いと言いながら、ふざけ合っていた。それから「ご馳走様。」と言って、うちらは、ファミレスから出た。


 「野村に奢らせて、悪い事してもうたな。しかも俺らの事は、嘘やのに。」

 歩きながら、松山君は、何度も同じ事を呟いた。

 「でも、本当の恋人、連れてこられへんやろう。野村君は、そんな事では、のりを切らへん人やと思うけど…。普通に異性しか好きになった事がない人には、理解されにくいもんな。…その話しは、今日はもうええやん。早く行かな、恋人の所に行かれへんようになるから、急がな。悲しい思いさせたらあかんやろ。」

 うちは松山君をせかして、小走りに歩きはじめる。彼は早歩きでうちに追いついて、うちの横に並んで歩いた。

 

 うちと松山くんは、駅に着いて、改札を通った。いまから松山君は、恋人に会いに行きうちは映画を観に行く。

 「中村さん、今日はありがとう。」

 「どういたしまして。映画は、ちゃんと見て帰るし。明日松山君に内容説明するな。」

 ほっとしたせいか、お互い呼び名が、元に戻ってる。その事に気がついて、うちらは互いに笑い合う。

 「名前の呼び方、気をつけなあかんな。えっと…なかむ…いや、純子、ほんまにありがとうやで。じゃあ。」

 松山君は、着いた電車に飛び乗り、うちに扉越しに手を振った。

 うちは、それを見送ってから、反対側のホームに移動して、電車を待った。

 

 

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