第4話 カモフラージュのはじまり
「うちとあんたが付き合ってる事にしといたら、まるくおさまるんやないか。」
うちの提案に、松山君は、目を見開いて、呆然としてた。
「いや、いや、中村さん。俺は助かるけど、大泉さんに、誤解されてもええんか。好きな人がいるのに、そんなん嫌やろ。」
「あんな、嫌も何も、振られたばかりで、そんなんないわ。それに…。大泉さん、うちの気持ちが、自分の誤解やったと思って、安心するかも。そしたらうちも助かるし。」
うちは、思いついた事をそのまま言った。
「それに、野村君をほっとかれへんやろ。うちは、いまのところ、誤解されたら困る人がおらんからええで。あんたのパートナーが、うちとの関係を誤解したらあかんから、説明しといてくれなあかんけどな。ほとぼりが冷めたら、別れた事にしたらええだけの事やし。」
松山君は、また空を見上げて、桜の花びらを手のひらに掴む。それを握りしめてから、口を開いた。
「そしたら…中村さんの都合が悪くなるまでええから、俺と付きおうてるフリしてくれるか。」
うちは笑いながら、答える。
「うちがいいだしっぺやねんから、ええに決まってるやろ。あんたは、うちと付きおうてるフリする事で、恋人の事を詮索されへんようになるし、うちは大泉さんが好きやった気持ちを誤魔化せるし。お互い悪くないと思うで。」
松山君もうちの言葉を聞いて、やっと笑顔を見せて話しだした。
「それやったら、人前で、お互いの事を苗字で呼ぶのもへんかもな。」
「そうやな。松山君は、憲武って名前やったな。うちはあんたの事、のりって呼ぶ事にするわ。ええかな?」
「ああ。もちろんやで。俺の方は、中村さんの事を、純子って、呼び捨てして、ええかな。」
「好きに呼んでくれたらええで。明日からしばらくの間は、うちらは恋人同士やねんから。」
うちらは、ベンチから立ち上がって、どちらともなく手を差し出した。
「よろしくな。」
「こちらの方こそよろしくやで。何回も言うけど、あんたの恋人には、誤解されへんように、ちゃんと説明しといてや。」
「ああ。でも、中村さんが都合悪くなったら、ちゃんと教えてくれよ。その時は、別れたという事みんなに伝えなあかんからな。」
しっかり握手して、笑いあい、うちらのカモフラージュの恋人としての関係がこの時から始まった。
桜の木が、いつの間にか、夕日に照らされて、色合いが淡いオレンジ色に染まっていった。
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