第3話 お人好しすぎる純子の提案
しばらくすると、地面に座っていたうちにも普通の感覚が戻ってきた。
「痛っ。」
「中村さん、大丈夫か?」
ベンチから落ちた時に、腰を少し打ったみたい。腰をさすりながら、うちは、気を取り直して、桜の絨毯から、ベンチに座り直した。あまりにも意外なカミングアウトに、動機が治らない。まさか、こんな近くに、同性を好きな男子がいたなんて。
「いま、俺の事、おかしいと思ったか?」
うちは、首を横に思い切り振った。
「うちかって、一緒やもん。変に思うわけないわ。こんなん自分だけやと思ってたからびっくりしたけどな。でも、ええなあ。相手も同性が好きなんやったら、うまくいくやんか。」
「ああ。気持ち悪がられへんし、それはええねんけどな。」
松山君の表情が少しこわばった。
「でもな、みんなに紹介できひんというのが悩みかな。」
「そんな事が悩みなんか。別に2人が通じあってたらそれでええやん。同性に振られたばかりのうちからしたら、贅沢にしか聞こえへんねんけどな。」
「…中村さん、ごめん。」
うちが勝手にすねてるだけやのに、松山君が謝る。それから、話しを続けた。
「実は野村に、彼女おるのか聞かれた時にうっかりうんと返事してもうてん。」
野村君といえば、全国模擬試験で3番以内やったという事で有名な人やった。同じ中学校出身やから、うちも知ってる。難しい問題を、わかりやすく教えてもらった事もある。松山君と同じで優しい男子やと思う。
「その日から、彼女が見たいと言って、しつこかってん。写真くらい見せれるやろうって言われて。でも、見せられるわけないし。で、俺がいつまでたっても写真も見せへんから、信頼されてへんねんなって、野村が落ち込んで…。だから、つい、今度彼女に会わせたると言ってもうてん。」
「野村君に、都合つかなくなったと言ったらええんやない?」
「あの時の嬉しそうな顔思いだしたら、そんな事言われへん。だから、あいつと会わせて、カミングアウトするしかないんかなあと考えてるとこや。」
その時うちは、野村君が、もしも、同性を好きになる事を理解してくれなかったらとふと思った。うちみたいに、松山君が泣くんやないやろうか。親友を失うのも、うちみたいに恋を失うのも、悲しい事には違いない。
うちはそこで、ふとひらめいた事を言葉にした。
「松山君、いま、ええ事思いついたわ。あんたとうちが、付き合ってるという事にしたらどうや。」
うちは、この提案が後々、悩みの種になるなんて、その時は、思いもしなかった。
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