第2話 優しいクラスメイトの秘密

 高校生活が始まる前日、うちは好きな女の子に振られた。それを見ていた同じクラスの男子松山君は、涙が止まらないうちを、公園のベンチに座ろうと誘った。隣りに座った彼は、頭をかきながら、何も言わずに空を見上げている。しばらくそこで風が散るさくらの花びらを、一緒に見ていた。


 「変なところ見せてもうて、ごめん。」

 うちは涙をハンカチでふきながら、彼に話しかける。

 松山君は、うちを見て、首を振った。

 「なんで中村さんが謝るねん。俺の方こそ、立ち聞きしてごめんやで。」

 うちは、恥ずかしくなって、俯いた。よりによって、同じクラスの男子に、女の子が好きって事がバレるなんて。しかも失恋したとこれを見られるなんて。明日からうちは、どうしたらええんやろう…。こんな時は、黙っといてと頼むしかないやんな…。

 「…松山君、同性が好きなんて、気持ち悪いと思うやろう。」

 だけどうちは、それだけ言うのがやっとやった。松山君は、うちから視線をそらして、空を見上げながら、こう言った。

 「好きな人がたまたま同性やっただけの事やろっ。俺は普通やと思うで。」

 「優しいねんな。松山君。」

 うちは、松山君の言葉に、素直に感動した。気持ち悪いって言われるとばかり思っていたから。彼なら、頼まなくても、今日の事を、きっと黙っていてくれるに違いない。大泉さんも、うちのせいで、余計な恥をかかずに済む。

 松山君は、降りしきる桜の花びらを手のひらに乗せて、握りしめた。

 「…お前の秘密知ったから、告白するわ。実は俺、付き合ってる人おるねん。」

 「そうなんや。羨ましいなあ。」

 「羨ましい…か。」

 失恋したばかりのうちが、そう思うのは当たり前やと思うけど。彼は何かいいかけて、口を結んだ。

 松山君は、手のひらを開いて、桜の花びらを風に飛ばす。それからため息をついて、うちの方を見た。

 「俺もお前と一緒やで。実は、俺の恋人は、男やねん。」

 一瞬、何を言われたのか理解できなくて、うちの中で、時間が止まる。

 俯いて黙り込む松山君…彼の好きな人が、同性…それってまるで…。

 「えっ!?」

 意味を理解したうちは、びっくりして座っていたベンチからずり落ちた。

 まさか自分と同じ悩みを持ってる男の子がいるなんて。

 うちはしばらく地面にひかれている桜の花びらの絨毯に座り込んで、松山君の瞳を見つめていた。風が新しい桜の花びらを、次から次へと連れてきた。

 

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