第4話 精霊との出会い1

 闇に溶けていった後、微かな光を感じながらゆっくりと目を開けた。


「グルルル!!」


 赤ちゃんが産まれた直後に絶対に聞くことがない咆哮に戸惑いながらも、眼を開けた後、最初に見た景色は青空であった。


「ぁぅぁ」

(なんだ? これはどういう状態だ。姿は赤ちゃんなのだが、なぜ外に⋯⋯?)


 生まれた村で山賊か盗賊などに襲われて逃亡を図っているところで獣に襲われている最中?

 生まれたが、実は子供が必要に感じられずに森の中に捨てられた?


 似たり寄ったりのパターンも次々と考えながらもふと疑問に思うことがあった。


 それは、生まれた直後にしては身体が少し成長しているようには感じる。記憶自体は少し経ってから芽生えるようになっていただけかもしれないが、もともと説明がないのもあるだが、どうも腑に落ちない。


「ガゥ!! グルアッ!!」


 足が何やらむず痒い。が、今の俺ではかくことができない為、足を少し持ち上げようとしたら、かなり大きいサイズの犬らしきものが空を飛んでいったのがふと見えた直後、下ろした足と共に爆音が鳴り何も分からないまま坂にズリズリとゆっくり自分の身体が滑りこんでいくと、どういう場面なのかハッキリと理解できた。


「あうぁ」

(理解はできたが、どう説明をしていいのか⋯⋯)


 凹んだ地面のおかげで、目線が前に向けれたがそこには大きなクレーターに1匹の犬の上半身が何かに潰されたようにぺったんこになっていた。

 そして、その周りにはまだ数十匹の図体のでかい狼が俺を見ていた。


【グレーターウルフLV128】

 その牙や爪はミスリルにも匹敵するほど硬度があり、集団が基本であるが、単体でもその素早さがあるため、かなり厄介な相手である。


 ステータスも表示されるが、素早さに関してはS表示他はAであるが、この世界の基準がわからないのでどうでもよかった。


 が、いまはどうするべきかを考えるしかないのだが、この潰された狼のクレーターは誰の仕業だろうか? もしかすると俺という餌を取り合って戦っていたのかもしれないが⋯⋯その痕跡が一切感じられなかった。


 そうこう考えている間に、戻ってきた狼が俺の頭を咥える。


「あう!」


 やばいと思ったら俺は手を必死にブンッと振り回し狼の頭に当たった瞬間、赤い霧のように飛散した。


「⋯⋯ぅぁ?」


 浮いた身体が地面に落ちるが受け身を取ることが赤ちゃんに出来るわけもなくおでこが地面に当たると先程のクレーターが消え去り、周りの樹木や狼を吹き飛ばす衝撃波と共に巨大なクレーターが新しくできた。


 結論。


 どうやら食べたかった俺の肉体がミスリル並の硬度を持った牙でも噛めずにいたらしい。

 先程の足の痒みも足を噛んでいたからなのだろう。そして足を軽く上げた瞬間に空に吹っ飛び下ろした足がもう1匹の上半身を潰したというわけだ。


「あうあうあ〜」

(さて⋯⋯これからどうするべきだ?)


 俺を転生さした神見習いとはいえ真面目そうだったのにも関わらずこの失態。クレームどころの話ではないだろうし、返品も不可能。さらに俺の様子を少しでも眺めていたなら、すぐに対応してくれそうなのにしていないという事から希望はゼロだろう。


「⋯⋯」

(詰んでるよな?)


 結論はそれしかなかった。


 歩くことすらままならない状態で、食料(ミルク)を確保しようがないし、この曝け出された青空の真下でどう生きろと。


 とはいえ、現状まだまだ情報が少なく、捨てられている訳ではなければ、村人や親が探してくれている可能性はある。


 ーー夕方ーー


 うん。結果は誰も来なかった。もしかすると周辺には村が無いのかもしれない。


 そして、今の俺は血塗れである。凹んだクレーターには見事に数十匹の狼の死体。


 おかげさまで、この身体はどうやら動く天災なのだと理解はできた。想像するにステータス的には全てEXなのだろう。この手で狼の足を掴めばバナナを握り潰したかのように潰せる。そのまま更に振れば根元からブチンと千切れた結果。


【この身体では少しも動いてはいけない】


 との、結論になった。


 じゃあ、他の狼は? と思っている人も多いだろうと思うが、それは⋯⋯たった一回の大きなクシャミで衝撃波なのだろうか? 身体中から血を吹き出し倒れていったのである。


 ぐぅぅぅ。


 お腹が鳴った。生理的にいえば当たり前だろう。流石に女性のおっぱいを吸いたいとは思わないが、ミルクでもなんでもいいから飲みたい。


 更に空腹が飢餓状態になる頃には辺りが暗くなりはじめていた。


 目の前には狼からはみ出ているピンク色の肉が見える⋯⋯。


「うぅぅ」

(美味そうだ⋯⋯。この姿でなければ鑑定で寄生虫などを確認したあとに生で齧り付いていただろうに⋯⋯そのあとは焼いてみたり野草と組み合わしたり、スープの出汁につかったり⋯⋯。


 グルルゥウ。


 狼の鳴き声とおもうかにようにお腹が大きく鳴った。


 肉⋯⋯肉肉肉⋯⋯。


 記憶があると言うことはなんとも恐ろしいものである。今の姿が赤ちゃんだという事をすっかり忘れて、ミルクなどより目の前にある肉の事しか考えられなくなっていた。


 ジュクン。


 口の中に肉の旨味が広がっていくのを感じた。


「うああぅ!」

(美味い!!)


 なぜだかハッキリと感じる肉の味に疑問に思うより、考えるより先に肉の味を堪能して感動する。


 満たされた感覚に落ち着くと周りに咀嚼音が聞こえている事に気づく。


(別のモンスターか? 死肉でも求めてくる動物も多いだろうし)


 そう思って周りに意識を向けると、何やら黒い球体がゴロゴロと転がりながら狼の近くにいっているのが分かる。


(なんだアレは?)


 アルマジロみたいなダンゴムシみたいな丸い何かが狼の元に行くと咀嚼音が聞こえる。

 それと同時になぜか俺の口内に肉の旨味が広がっていくのだ。


(敵意は感じられないが⋯⋯正体が分からない⋯⋯もう少しもう少し近くまで来てくれれば⋯⋯!)


 そう念じていると黒い塊が俺の元に転がっていくとその正体がわかる。


(黒い水銀のような物でできた物体だが、これは間違いなく前世での俺の頭だった)

 

 自分の頭がなぜか単体で転がり肉を喰らい俺に提供してくれていたので鑑定してみた結果。


【黒龍体(頭)】

 この世にはあってはならない物質でできている頭だが未完成状態。不完全な状態での創造魔法の産物。


(創造魔法? あぁ、そうか⋯⋯ここは既に別の世界⋯⋯)


 魔法という概念はなかったが、初めてその存在を理解した。そして自分に鑑定をしてみる。


【柊 ツミキ】

 男性18歳。ニンgン?

 ジョブ:A黒か見ちゃるん

 スキル:創造魔法


(見事に文字化けしてるな。これはあの転生前のやりとりが関係しているのだろうか)


 そのまま創造魔法を鑑定する。


【創造魔法】

 全てを創造できる神のスキル。※現在、神々に登録されていない為、世界の変動には使用不可能。自分自身には使用可能。


(なるほど。やはり二冊の本が原因なのだろうが調べる術が現状ではないから後回しでいいだろう)


 ならば、最優先ですべき事があり、早速実行する。


【創造魔法使用】

 この世界におけるサポート役を頭の中に創造。これにより元の世界にはない情報全般のサポートに起用する。


『システムの構築が完了しました。初めまして、ご主人様。私に名前をつけてください』


(名前いるのか? ⋯⋯アルファでいいか)


『⋯⋯⋯⋯アルファで登録いたしました。これからよろしくお願い致します』


(なら、早速で悪いがそこに転がっている俺の頭のことに関してわかる情報を教えてくれ)


『黒龍体(頭)ですね。創造魔法の認識構築をせずに想像を爆発させた結果と断定します。その時に齧り付く姿や咀嚼する姿などから、核がない不完全な魔法が発動したのだと思われます』


(核⋯⋯それは原動力のようなものだよな?)


『はい。この場合の核は貴方様ご自身ですね。コレの本来の形というものは、自分に龍体を纏うものです。ですから、今も頭だけではなく周辺にも龍体の手足が転がっています』


 周辺をよく見るとたしかに黒い手足が転がっていた。四肢があっても身体がないのは身体部分は俺自身がなってなければいけなかったのだろうと理解する。


(ん? まて⋯⋯)

 ふと何か嫌な予感がした。いや、もう頭の中では⋯⋯原因は分かっているが⋯⋯これを口に出してしまった方がいいのかどうかがほんの少しだけ迷ってしまう。


(アルファ、一つ聞くが⋯⋯この身体はこれから成長する可能性はあるか?)


 そう⋯先程、自身にかけた鑑定で文字化けしたり魔法などの情報がきっちりと反映されているのに年齢だけが変化していなかった。この場合は0歳になっていてもおかしくはないはずなのに。


『その質問の答えは⋯残念ですが正確な解答ができません』


(なるほど。転送時にあった話の結果がこのバグなのか)


『間接的には正解ですが、直接的にはその前に手に入れた2冊の知識が原因だと推測します』


(なら、当初の予定通り、俺は貴族のもとに生まれたわけではないのか?)


『はい。現在は理から外れた存在ですね。魔王になろうとすれば慣れますし、魔王じゃないというなら魔王ではありません』


(前半はわかるが、後半は勇者になろうとすれば勇者になれるじゃないか?)


『⋯⋯天災級の災害を模した赤ちゃんを、勇者になりえる可愛らしい赤ちゃんですよとお世辞にも言えませんでした。申し訳ございません』


(そうか⋯⋯まぁ、成長の見込みがないよりかはマシと思うとしよう。とりあえず龍体を纏いたいがサポート頼む)


『かしこまりました』


 黒い手足と頭が俺の元に集まるが、その光景はなんともホラーである。正直、一回解除して消した方がよかったんじゃないかと思っていたが、本来の姿に1ミクロもズレが生じていない為、このまま使った方がいいとのことだった。


 集まった手足と頭が俺に触れた瞬間に俺自身もドロリと溶けながら影に沈んでいくような感覚に陥るが、次に見た光景は懐かしい目線であった。


「おぉ、たしかに俺の体だ」


『おめでとうございます。龍体の中に繋がっていなかった未知なストレージなどがありましたので繋げておきました』


「ああ、ありがとう? ただ、人の街に行くならもう少し人間にする事は不可能なのか? どちらかというとコレは形の無いものが、俺の姿を模倣しているだけに感じるんだが」


『残念ながら不可能です。形がないというよりそれは黒龍体【黒死天】と呼ばれるいるだけで災害が発生する形態なだけです。ちなみに人の街に行けば数時間も経たずに街が息絶えますのでオススメは致しません』


「⋯⋯そんなに危険なのか?」


『えぇ。先程、龍体になる前にこの周辺にいた生物は全員尻尾を巻いて逃走しておりますので、そこに倒れていた十数匹の狼以外は死んでいないので安心してください』


 ギリギリ生きていた狼もいたはずなのだが、現在は黒く染まりボロボロと崩れていく。


「安心できねぇ⋯⋯赤ちゃん時は動けぬ天災でこっちは歩く天災⋯⋯どう過ごせと」


『一応、龍体の時は生物は逃げていくので散歩などは楽しめるかと。範囲的な樹木は全部消滅していきます』


「散歩したい訳じゃねーよ。異世界で知識だけある無能者なりに村開発を楽しみながら精一杯生きていけばそれだけでよかったんだけどな⋯⋯」


『それは失礼致しました』


「まぁ、魔法がある時点で俺の今までの固定概念だけで物を言うのも間違っているか。当面、生活面の土台でも築いて情報を集めるようにしよう」


『了解しました』


「とりあえずは水の確保だな」


『数キロ先に湖がありますが、たどり辿り着く前には黒い湖になります。今現在、そこまで水が必要なのですか? 先程の狼をもとに水分・栄養はひとまずは問題がないと思われますが?』


「あぁ、飲むためじゃなく体を洗いたいのと水質を見ておきたいだけだな」


『身体は龍体を纏ったので綺麗にはなってはいますよ?』


「そうなんだろうけど、これはただの心の問題だな。血を浴びているせいか感覚に臭いやぬめりがこびりついているんだ」


『なるほど。わたしには分からない事ですので、とても参考になりました』


「あぁ、構わない。さて、優先的に水浴びに行きたいが⋯⋯この龍体とやらの出力を調整できるのかが先か」


『私が最小に調整していますよ。それ以下は不可能です。もし可能性があるなら、その力に耐えれてさらに封印できるような別の何かが必要になります』


「そうか⋯⋯」


『水浴びの件に関してですがどうやらできる可能性が出てきました』


「本当か!? どうすればいい?」


『東の方向に右足を強く踏んで一歩進んでください』


「それだけでいいのか?」


 右足を強く踏み込むとその波状がソナーみたいに身体中で感じながら樹木や地形などを把握していくと、数キロ先に湖を感じた瞬間に空間に何か違和感を感じた。


「あの湖に何かあるな」


『えぇ、精霊です。神聖な湖や森、遺跡などに亀裂を作り断層に住みながら自由に出入りをして必要な物を取りにいったりしているのが特徴です』


「なるほど。なら余計に近くにはいけないな。で、今の行動が水浴びにどう関係してくるんだ?」


『来ました』


 音もなく気配もなく、いつのまにか土下座をした半透明の女性が目の前で震えていた。


「ま⋯⋯魔王さま。我らは安住を求めどこにも属することもなく平穏を望んでおります。あの湖がご所望であれば、直ちに移動を致します故、どうかこの身一つで見逃して頂く⋯⋯」


『精霊の中でも王族ーー王女ですね。その身体の隅々まで利用価値があります。子を孕ませれば高い魔力を持った子が量産でき、眼を食せば精霊眼、肉を血を食せば魔力の増減、若返りなど。国一つは軽く買えるお金になりますよ』


(いや、そう言われても興味ねぇし、いらねぇ。むしろ国民になって共に平穏に過ごしたいぐらいだ)


「悪いが⋯⋯」


 その瞬間にビクリと身体中が反応した後、ガタガタと震え上がった。


「お⋯⋯おぃ、だい⋯⋯」


 大丈夫か? と言いたかっただけなのに、人型というものはこれほど激しく揺れる事ができるのかと思うほど激しく揺れていく。

 むしろ残像もみえる為、謝罪をする為の技があるんじゃないかと思うほどだ。


『龍体時に発する言葉は圧がかかりますからね。黒龍体の場合は【仙圧】でも名称をつけますか? 本当は千の威圧ですが、その一言が山が落ちてくる様なイメージですからね。前の世界では仙道というのでしょう? それを利用してみました』


(千の威圧ってなんだよ⋯⋯そんな厄介なモノは必要ないんだが?)


『威圧は龍圧、威圧、王圧(王の威厳)など様々な威圧系統全てを与えるスキルですので、この精霊がこれからどうなっていくものか楽しみですね!』


(さっきから気になっていたが⋯⋯観察したいが為に調整してない訳じゃないよな? どうも察しがまだ悪いかと思っていたが、どうも察しがよく俺のやりたい事を先に準備ができるはずなのにしてないように感じるんだが?)


『い⋯いやですね。まだ私自身の調整が済んでいないだけですし⋯⋯ちょ⋯調整には少し時間がかかるだけです。もう、威圧の調整が終わりましたので普通に話せますよ』


(⋯⋯まぁ、今回はいいが、次やったらクビな)


『了解しました。ただ、事前に言う許可をいただきたいです』


 呆れて口には出さなかったが、それってすでに、観察してたって認めてんじゃん⋯。

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