第3話 主人公柊つみき

 柊ツミキはこの物語の主人公である。


 父:柊 剱(ツルギ)

 母:柊 楓(かえで)

 妹:柊 椿((つばき)

 そして、俺の4人家族だが、もう一人ほど血縁は繋がってはいない家族がいるだが、それは後ほど言おう。

 どこにでもある普通の家族だと言いたいが、実際は日本トップの企業『レーギャルン』の代表である。

 ライバルだった企業を全て吸収し、9つの部門を統括。現在では新規企業を起こしたとしてもレーギャルンに頼るしかなく傘下に入るしかない。

 

 トップ企業の社長、しかも9つの業界のトップならば笑い合う家庭というのは忙しさのあまりなかなか上手くいかないものである。


 母は元々身体がは強くなかった。だから、その代わりに父は母の代わりに俺の世話をする侍女【橋渡(はしわたり)紬(つむぎ)】を迎え入れる。

 俺よりも5才上の紬は拾い子なのかどこからきたのかはいくら調べても結局は分からなかったが、父はなぜかこの子に信頼を寄せていた。

 俺とツバキにとっては姉でもあり第二の母でも友達でもある為、物心がついた頃に一度だけどこから来たのか質問をしたら、


『お姉ちゃんはね。転生してきたのさ!』


 などと、ドヤ顔で自信満々にいってきたのをよく覚えているが、今となって思う事はその話は事実だったのかもしれないが過ぎたことなのでどうでもいいのである。


 多数の業界を管理している父の仕事場は家であったのがせめてもの救いであったが、やはり忙しく母との時間はあまり取れずにいた。

 それをフォローするかのように、紬は俺と5才しか違わないのに、俺を背負いながら家の事と父の仕事を手伝うほどの手腕を発揮しており、父と母が一緒にいる時間が少しでも増やそうとしていた。


 そして、その影響からか、おれが3才になる頃には仕事の書類が見れるようになっていた。見れるようになっていたとの表現は合っているかはなんとも言えないが、書類に目を通せば全て頭の中に溶け込むように入っていく。


【会社の書類】内容の中に誤字や計算ミスがあれば赤く表示されており、全てを終わらすと【同調率+0.001%】と表示される。


 その頃から、このような文章が頭というべきか眼前というべきか、周囲の邪魔にならない場所に出現するようになっていた。

 図鑑をみれば、その詳細、生物であれば遺伝子(DNA)グラフから骨格、血流、筋肉などの情報などが全て頭の中で再生ができるようになった。

 物をみればその詳細が明らかになっていくたびに同調率が上がっていく。


 5才になる頃には紬と共に父を手伝うようになり、父が少しでも母と一緒にいられるように頑張っていき、おれが8才になった年に妹であるツバキを出産。


 仕事も安定し、父も時間が取れる時間も増やせ、妹も産まれ順風満帆だったと思われたが、ツバキを出産後、母がそのまま亡くなった。


 それを追うように父の精神が崩れた。精神がガラガラと崩れた後はもぬけの殻かのように仕事に一才手をつかず放心状態となり、いずれ戻ってくると思った俺は父の代わりに紬にも手伝ってもらいながら仕事をこなしていく。


 丁度その頃、同調率が100%になり、仕事効率も生活感も人の域を超えていく。


 書類を読めば頭に溶け込み、数十枚ある書類は修正箇所を含め、一枚の分かりやすい書類に整理され、眼前にあるコピー機をみると【出力しますか? Y/N?】と現れ、そのままイエスにすると出力ができた。


 時間が空けば、家のトレーニングルームで指を咥えているツバキが見ている中、紬に『仕事の基本は身体です』と鍛錬させられて身体作りもさせられていく。


「【目は完成された】ので、その眼をつかいこなせる身体と技をきたえていきましょう」

 

 そう言った紬の世界論は俺は疑うこともなく信じていた。


【鳥は生まれながらに地上を見下ろしている。だから空を飛ぶ事に疑問を抱かない。ならば、人は? 人も生まれながらに地上をみていれば、その過程による進化は起こっていたのだろうか?】

 そのような事がかかれている本もあるが、要は転生したといった紬の世界観が俺の基盤となっているということが事実である。


 同調率も頭の中でコピー機が出力できるのも、紬に聞くと『普通だよ? ただし私以外には見せない方がいいかな。まだ小さいツミキが使えると分かると、みんなに襲われるかもしれないからね』と言っていた。


 それから数年後、一度も仕事に戻ってこなかった父に突然『⋯⋯すこし話したい』と言われて、いよいよ戻ってくるんだと思った俺は喜んだが、父の部屋に入った瞬間に違ったと理解する。


【紅茶(強力睡眠薬)飴(猛毒)】


 が、テーブルに置かれた状態での会談。


「久々だな⋯⋯暫く見ないうちにでかくなったな⋯⋯」


「父さんは⋯⋯やつれましたね」


「⋯⋯あぁ⋯⋯目の前が真っ暗なんだ。私の目は彼女だけ映していればよかったのだ。いや、彼女の笑う姿に子供(つみき)と戯れ合って楽しくしている姿だけで⋯⋯」


「⋯⋯⋯⋯」


【柊 ツルギ】

【状態:忘却、不安定】

【現在目的:ツミキと心中】


「⋯⋯まぁこちらにかけて。お茶でも飲もう? 飴もあるぞ?」


 そういわれて、お辞儀をして椅子に座る。


「ツバキはよろしいのですか?」


「ツバキ? 誰だい、それは新しい友達かい?」


「⋯⋯いえ、なんでもありません」


 父が飴を剥いて渡してくる。


「私たちは⋯⋯仕事ばかりではダメだったんだ。私たちはこの世界にいてはいけない。分かるね? だから私と一緒に妻の所にいこう」


「分かりました」


 そう言って、もらった飴と紅茶を飲むと安堵した父も同じように続いた。


【毒状態になりました。毒情報取得。解毒作業開始。作業終了まで体力が減り続けます】


 俺がゴフッと血を吹いたあと、父も苦しみ始める。


【毒耐性取得。この毒を遺伝子を使い、この世界にある毒を図鑑より引用、中和開始。情報の取得に成功。毒耐性が毒無効になりました】


 苦しむ父が最後に俺を見た。それは楽に死ねる予定がかなり苦しむとかんじたからなのか、ただ単に最後に俺の顔を見たかっただけなのかは分からないが、血を吐いたはずの俺が立ったまま父を見下ろしている事にひどく怯えるような顔をして、


「お⋯⋯おに⋯⋯」


 そう言って息を引き取った。


【肉体が一定時間死にかけた事により覚醒いたしました。『龍眼』が覚醒した身体と同調し『真眼』となりました】


 ツバキの部屋にいた紬が察知したのか慌ててこちらに向かっているのがハッキリと分かる。


「ツミキさま!!」


 紬がノックもせずに扉をあけると、俺を見た瞬間に一瞬青ざめた顔をしながらも安堵する。


「父さんはもうだめだったよ。ツバキの事すらまるで知らないようだった」


「今はそのような事を今は言っている場合ではございません! すぐに救急車をお呼びしますのでお着替え下さい」


「⋯⋯⋯⋯」

 シャワーを浴びながら、父と母の事を考える。心中など当たり前で悪い事なのだが、それは母を愛していた反動(しょうこ)でもある。そしておれは二人の子供。

「父さん⋯⋯母さん。二人の意思は俺が受け継いでいくよ」


 その時に鏡に映った自分の瞳が人の眼ではない事に気づく。父が最後にいったおにという言葉が人ならざる者のことだとすぐに理解したのであった。


 父は母の事があり服毒自殺と決定されると、次の日にはニュースに報道される。


【日本トップ企業レーギャルンの社長 柊 剱が昨日、自宅で自殺をしていたことが関係者のーー】


 仕事は順調に進んでいたこともあり、家で仕事をしていたのが誰だったのかも知らない社員達は一斉に驚いていた。


 8才の子供が会社をまわしていたことは一部の人間しか知らされる事がなかったシークレット情報だった為、会社の後釜に選ばれることもなく、それでも一部の人間は声を上げたのだが、通用するわけもなくツミキとツバキと紬は事務所という名の我が家を未練もなく去っていった。



 そして10年後。


「ツミキ様、お茶ですよ」


「ありがとう。今日の議題分の質問や回答、考えられる点は全てこれに入れてあるからあとは任せる」


「はい。ツミキ様の高校生活も、もう終わりなのですね。あれから⋯⋯なんだか時間がものすごく早く感じますね」


 父の心中自殺が失敗に終わった後、家を出た後に考えたのは父の言葉であった。


『仕事を優先に生きる人間は世に生まれてきてはいけない失敗作だったんだ。だから私達は消えよう』と。


 父と最後に会った瞬間にスキル『読心』で聞いた心の声である。


 他の道なんていくらでもあったはず、人一人がいなくなったところで世界が止まることはない。が、父はそれを選んで去っていった。その件で追及することは既になく、無論見習う点がある訳もなかったのだが、心には虚しさだけが残っている。


 俺達が家を出た後、最後に着手していた完成間近だったタワーマンションに行き、丸ごと買い取り住み始めた。


 ツミキが会社を回している事を知っていた人達は次の日にレーギャルンを退社。タワーマンションの部屋を借りる為に紬と連絡をとって、新しく行動を起こす時は使ってほしいと懇願された。


 その結果、10年後には新しく創った【c:Re】という会社は世界トップ企業になり、元日本トップ企業であったレーギャルンも全て吸収していた。


 ツミキがいなくなったレーギャルンは年々業績が下がっていく一方、今までは絶対に無かった不正や横領・改竄・データ流出など次々発覚されていき、栄光はすぐに地に落ちていったのである。



「お兄ちゃん! 起きた時になんで一緒に起こしてくれないの! いつもいつも、いつもいつもいつのまにかすり抜けて離れてるし!」


「いつもが長い」


「いつもが本当に長いからだよ! だから一年毎に増やしていってるんだからね!」


 紬が目にも見えぬ早さでツバキの準備を進めているが、そのツバキも既に10才である。が、甘やかして育てていたせいか、甘え癖が酷く寝る時もお風呂も平気で侵入してくる始末である。


 ひどい甘え癖はあるものの、ツバキも年齢に似合わぬ天才であり、すでに海外で院を卒業しているのにも関わらず、日本の学校に通っている。


 会社の起業とは別に、ツバキと俺は学生生活を満喫している。本来なら通う必要もないのだが、これは生前、母の願いである。『普通に家族仲良くいつまでも暮らしていきたい』と。


 その通りに俺達3人は家族以上の絆で生きてきた。そういう生活を続けていたある日。


 向かいの交差点で母親が携帯電話に集中しているせいかベビーカーがゆっくりと動いていき交差点に進入、そこに車が突っ込んでいく。


(見てしまったものは仕方ない)


 足に少し力を溜めて風のように走るスキル『風脚』で、赤ちゃんを助け出そうとして手を伸ばすと、どこからか現れた透明な手が赤ちゃんを掴みそのまま天に向かおうとしていた。


(これは⋯⋯)


 肉体がある赤ちゃんは既に抱きしめており、車との衝突まであと数秒。だが、透明な手には透明な赤ちゃんが天に向かっていこうとしていたのを咄嗟に掴んでしまったところで意識が途絶えしまい、次に意識がはっきりしたのは、真っ白な部屋に白い本棚に囲まれた書斎。目の前には誰かが座っているのだが、後ろのステンドグラスの光が強すぎて視認ができなかった。



「目がさめた?」


「えぇ。覚めましたがここは?」


「選定場所。魂を選定して本来ある場所に戻す場所だよ。そっちでは死神とも天使とも様々な言い方をしてるからそれだと思えばいいよ」


「なら、あの赤ちゃんは?」


「あの子は元々違う世界の子でね。そっちにいると能力が発揮されず空回りしてしまうんだ。だから回収をして本来の場所に行かすつもりだったんだけどね⋯⋯」


「おれが助けてしまったと」


「正解。で、君の処遇だけど⋯⋯なぜか君の能力はそっちの世界では異質なんだよね。スキルを使いこなすなんて本来はありえない事だよ」


「⋯⋯そうですか」

 既に分かっている事だったので、あえて聞く必要はなく、俺が周りに合わせればいいだけの事だったのだが、こうなるとは思わなかった。


「そっちはスキルというよりかは技能だからね。熟練度ともいうべきか、構造や仕組みを理解し年月を経て、やればやるほど限界値や効率があがっていくようなシステム構成だからね」


「なら、こちらとそちらでは管理者はちがうのですか?」


「うん。そっちの管理者は適当だからね。連れていく時も簡単に承諾してくれて、最後に記憶操作だけしてればいいしか言われなかったし」


「なるほど」


「で、君の処遇なんだけど、結局こっちの世界につれてくるようになった。で、色々と設定上の問題でこっちの世界で無能はそっちの世界で有能なんだけどその逆も然りなんだよね。なので君がこっちにきた場合は無能者になるけど、それでもいいかい? できる限りは幸せな家庭に行かせるようにはするよ」


「といっても、選択肢はそれしか残されていないんですよね?」


「まぁ⋯⋯正解。基本、断ち切ったものを元の身体に戻す事はできない。ただ、元の世界でまた生まれ変わることはできるけど、何十年か何百年後かは分からない上に記憶もすべて消滅しているからね」


「じゃあそっちにいく予定でいいですよ。無能者であろうと記憶があればどうとでもなるでしょうし」


「おお。本当にありがとう。もっと文句をいわれるとおもってたのに」


「そこは過ぎたことなのでどうでもいいです。ただ、もしよければ俺の才能などは妹のツバキの中に眠らすことはできますか? 場所に未練はないですが、家族はやはり心配なので」


「いいよ。本人にはみえないだろうけど、後継者として妹さんに付与しておくね」


「ありがとうございます」


「礼をいうのはこちらの方だよ。じゃあ僕は、君の生まれ先でも選出しておくから自由にしてていいよ。ここは神々になるための書庫だからね。君の知らない全ての事象に現象、技能や知識、魔法の本などがあるから退屈はしないと思うよ」


 そういうと姿が消えた。


「つばきや紬には悪い事をしたな⋯⋯」

 実際はそれだけが心残りである。幸せな家族が一瞬で崩壊してしまったのだ。悲しい思いを感じさせたことだけが何より心残りだったが、連絡する方法もない為、少しでも感じられる可能性があると考えた上で自分の才能を託していこうとおもった。


 本棚を見て歩いていると、二つに書物に目が入ったので鑑定をしてみると。


【黒の誓書】【白の誓書】


 どうやらお互い関連性のありそうな書物であったので、手にとろうとすると二冊とも生きているかのようにページが次々と飛び出し、俺の周りを飛び回る。


 これは読むのではない。が、知識が溶け込みように頭に入ってくる。膨大な情報量に頭の処理をフル回転させて対応していくが、処理に間に合わず次第に頭痛吐き気などが起こりそのまま気絶をした。


「目覚めた?」


 この体勢にもかかわらず相変わらず顔も見えない神に起こされた。


「どれぐらい倒れてました?」


「さぁ? ここには時間という概念などはないからね。にしても意識がはっきりしているなら大丈夫そうだね」


「⋯⋯?」


「ここにある書物は、先程もいったようにすべて神になるためのものだよ。普通の人間が読んだら異形化みたいになってもおかしくはないし、そのまま廃人になってたかもしれない。生命者なら直感的に開ける事を拒むようにもしてたんだけどね。まぁ、何も読んでないようで安心したよ」


(読んでない?)

 周辺を見渡しても、あの二冊は元から無かったかのように存在を確認するはできなかった。


「なら、貴方は神ではないのですか?」


「そうだよ。星々を管理するのは神見習い。その理(ことわり)を理解できているのか管理できているのか、それを実践・研究しながら書物を全て頭にいれてはじめて格が上がるって感じだよ」


「なるほど」


「まぁ、そんなことより君の出産日が決まったよ。今から二日後、田舎に飛ばされた真面目な貴族の元に生まれる。変なしがらみもなく、親の性格もよく、村人にも好かれているから条件としてはいいと思う」


「分かりました」


「それまでは妹さんの様子などでも見ておく?」


「いえ、眼を瞑って寝ています」


 これは逃げなのかもしれないし、未練が残るのが嫌だった為かもしれないが、おれは目を瞑り残り二日間はひたすら待ったのである。


 その結果がのちに影響が出ることとはつゆ知らずに⋯⋯。


 ここでは時間の概念はなく、神見習いとも言葉を交わすこともなく、瞑想状態のまま世界に溶けていくのを急に感じた。


【生まれ変わる為の転送開始⋯⋯転送が失敗しました。権限が神である事を確認。神を照合⋯⋯⋯⋯確認できません。神の性質をすべて全消去いたします⋯⋯失敗しました。封印を実行⋯⋯⋯⋯失敗。再度実行⋯⋯失敗。封印式を全て吸収されました。封印が不可能の為、術式破壊展開⋯⋯抵抗⋯⋯逆算されました。単一での封印・破壊は不可能です。術式領域の全てを使い容量オーバーをするしかないと判断。全てを一気に⋯⋯】


 やばいと思いつつも、俺自身は動くこともできずに、ただ単に内容を聞くことしかできなかったが最後まで内容を聞く事もできず深い闇に落ちていった。

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