第2話 主人公:柊ツミキ
勇者の凱旋は夜を通して賑わう。
「ばぶ」
(全種類を二つずつ)
「全ての種類を二つずつお願いするわ」
冒険者組合でカードを発行した俺たちは帰り道に屋台で大量の食料を買い全て収納に収めていっていると小さな子が手作りだろうか? 花の冠をマッチ売りの少女みたいに売っているのが目についた。
「ばぶばぶ」
(あれは孤児か?)
「そうでしょうね。たしか⋯⋯街の人間から記憶を読み漁ったときに、孤児院や教会も寄付だけでは賄えずに、こういうイベント時には出店許可が無料で下りるようにはなっているのですが、実際は表だっての出店はできず角の奥でしか出させないようにしているみたいですね。ですので、あのような形に売りに動いているのかと」
「ばぶり」
(ふむ、いつの時代も金を出すやつが正義って訳か。ついでだからコレでも試してみようか)
「分かりました」
花冠を売ろうとしたが、誰も見向きもしない少女は疲れ果てていた。みんなで色んな物を作り少しでも院を楽にしてあげたかったのだが⋯⋯。
「ねぇ、そこのあなた? そのみすぼらしい物を売っている店まで、私を連れていきなさい」
「ぴぃ⋯⋯!」
少女は恐怖した。目の前に真っ赤な髪をした目つきの鋭い綺麗な人が私を睨んでいる。
「⋯⋯あ、う、う⋯⋯」
もしかしたら動いて売ってはいけなかったのかもしれない、店を出るときに『周りには気をつけるのよ』と言われたのを思い出す。
「ばぶ!」
(脅すな。泣く寸前じゃないか)
その赤ちゃんに圧倒されたのか、物凄いしょんぼりしてその場で膝をつくと抱っこ紐から小さな手が出てくる。
「⋯⋯その花冠が欲しいそうですから、他のもあればお店まで連れて行ってもらえませんか?」
「わ、わかりました。では、ついてきてください」
表の広場とは違い、裏通りの更に用水路などに入る様な細い通路に店があり、左右に建物があり真っ暗な場所に店があった。
「お客さんをつれてきたよ」
たった一本の蝋燭でやっている店ーー正直に妖しさがマックスである。
「これはひどい⋯⋯」
「私たちみたいなのは売上にも貢献できないので、ここしかだしてはいけないと言われました」
「管理している人はどこにいるのかしら?」
「院の方で休んでもらっています⋯⋯ずっと迷惑かけているので、その恩返しをしたくて私たちでやっています」
「なるほどね。じゃあ商品を見せてもらえる?」
「はい。でも花冠や花腕輪がいっぱいなだけなんですが⋯⋯」
(こういうのはイベント序盤で昼のみで少量が売れる程度だろうからな)
「どうしますか?」
「ばぶばぶ」
(ほっとけないし、さっさと売ってすませようか)
「これを売るつもりなんですか?」
子供達が不思議そうに首を傾げている。
「ばぶり」
(このままだと売れないが、売るようにするなら簡単だ。幸い相乗効果を狙えるこの暗い場所も使えるしな。とりあえず値段をきいてくれ)
「この花冠は一ついくらで売っている?」
「えっと10ゴールドです」
「ばぶばぶ」
(なら、その10倍の100ゴールドで売るか。花冠をとりあえず全部だしてくれ)
言われた通り在庫の分も赤ちゃんの目の前に出すと、魔力に包まれる。
『わぁ⋯⋯』
子供達からにしてみれば、初めて見る光景に目を輝かせる。
「ばぶ」
(完了。今日一日は淡く光の強さによって多色に輝く花冠になっているはず。通路にも大人の目線で見える程度に飾っておけばいい)
通路に飾り終えるとすぐに声がかけられ、少女が対応する。
「ここはお店なのかい?」
「は⋯⋯はい! 今日一日は光の強さによって色んな色に輝くアクセサリーです」
「ほう。なかなか凄そうな物だけど一ついくらだい?」
「ええっと、一つ⋯⋯10⋯⋯いえ、100ゴールドです!」
もともと10ゴールドで売ろうとした物を100に戸惑いながらも答える。
「本当にその値段でいいのかい!? なら、腕輪と冠を3つずつもらおうか」
「え? は⋯⋯はい! ありがとうございます!」
一瞬聞き間違えかと思っていたが、その手にはしっかりと600ゴールドが渡された事に売れたことを初めて実感した。
そのあと、先程の人は家族で来てたらしく子供や妻に渡して大変喜ばれていた。
そしてそれがきっかけとなる。一つの家族連れが歩くたびに花冠と腕輪が多色に輝きながら淡い魔力の粒子が流れている姿は注目を浴びていく。
その家族に聞いたのだろうか、すぐに新しい客が来る。終われば次、そうして行列ができるまで然程時間がかかることはなかった。
「あわわわわ⋯⋯」
自分たちが作った花冠が残りわずかになり、在庫も全て空になったが、行列はまだ続いている。
どうしようと思っていたら、どこからか大量の花冠を持ってきてくれたスカーレットさんと赤ちゃん。
結局、11万ゴールドとなった。私達が用意したのはでも2万ゴールド⋯⋯。果たして何処から残りの花冠などを用意したのだろうと感じたのだが、質問をする勇気はなかった。
「あ⋯⋯あの本日は手伝ってくれてありがとうございました!」
子供達が一斉に礼をする。
「気にしなくていいわ。売上は全部寄付だから私達に渡す必要はないわ」
「で⋯⋯でも」
「子供が気にすることはなにもないわ。ただ院長にコレを渡しておいてもらえないかしら?」
そう言うと小さな布袋を渡す。
「これは?」
「あなたたちの未来。生かすも殺すも幸運も絶望もどっちにつくかはわからない物」
「⋯⋯⋯⋯??」
「分からなくていいわ。さて、用事もすんだ事だし、じゃあね」
スカーレットは、すでに子供達に興味がなくなりヒラヒラと手を振りながら去っていった。
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「どうなると思いますか?」
「ばぶ」
(さぁ。どうだろうな)
「にしても、ツミキは面白い物を創るよね。さすが私が惚れた男だけのことはある」
「ばぶばぶ」
(まぁ、あの袋自体は複製袋だからな。元々はなんでもコピーはできるが、今はゴールドだけ取り出せるようにしておいた)
「たしか犯罪に使うなら、ゴールドが粉々に砕けるようにできているですよね? 犯罪者が使おうとした場合、最高の場面で偽物とわかる様に内部で崩れるような様は是非見てみたいです」
「ばぶばぶ」
(当分は様子見だからな。いい方向に進めばよし。悪い方向にすすめばそれもまた一興。そろそろ家に帰るぞ)
「はい」
その場で立っていると影が身体を飲み込むように侵食していき、全身が黒くなった瞬間にちゃぽんと影に沈む。
そして、次に二人がいた場所は小さな小屋の前にいた。表には『一回10ゴールドなんでも屋』と書かれており、その入り口がない小屋に歩き出すと空間が湾曲し姿がのまれていった。
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「ライト」
真っ黒な空間に電球がつく。
白い壁にベットやカーテンにテレビなどの電化製品が備わっており、この世界ではありえない物で溢れかえっていた。
「さて、ツミキさま! テレビゲームをしてもよろしいでしょうか!」
【ダメ。さきに手を洗って、飯を食ってからな】
「うぅぅ⋯⋯早くこの聖魔刻淫大戦をしたいのに⋯⋯」
【それそんなに楽しいのか?】
「楽しいですよ。そもそも発想が素晴らしいです! 触手をつかい◯◯◯に◯◯◯が◯◯◯してとか堕落落ちや快感落ちとか様々な方法で陣地を拡大征服していくのですから!」
【ああ⋯⋯うん。楽しそうでなによりだ」
「そもそもツミキ様の持ち物なのでしょう? 一回もやったことがないのですか?」
【ないな。忙しくてそんな暇すらなかったしな】
黒く染まっている人間の形をした何かが料理をテーブルに並べていく。
「それがツミキ様の姿なのですよね? 黒炎がゆらゆらと揺らいでいるせいで、薄らと輪郭やお姿は分かるのですが⋯⋯」
【そうだな。これでも粘膜(スライム)が抑えてくれているから形が保てている状態だし。元の姿にもどるにはまだまだ長そうだ】
「それにしても、その恐ろしいスライムがよく懐きましたよね⋯⋯私達にはそれが不思議でたまりません⋯⋯」
【どっちにしろ。こっちにきてまだ40日だからな。まだまだ情報が少ないし、当分は情報収集だな。ってか、いまから飯を食うのにゲームのOPつけてんじゃねぇよ】
こうして夕飯を食べた後は、スカーレットはゲームをやり始め、俺は自分の部屋へと戻る。
【ふぅ。さてと⋯⋯】
椅子に座り机の上にあるノートを見る。
これは俺が死ぬ日にやりかけていたノートである。
【普通に考えれば、俺の持ち物が全て俺の中にある状態だろうな】
なら、元の世界では俺の荷物はどうなっているのだろうか? 複製袋などはこっちにきて創ったものであるが故に消耗品であるが、俺の持ち物は全て何度でも取り出せる。
あのゲームなども仕事の一環であり、俺宛に完成品サンプルとして送られていた物である。
さて、まずは俺がここに来た時のことを思い出してみようか。
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