チート転生したけど、もれなくバグがついていました。

古狐さん

第1話 プロローグ

 凱旋式。

 華やかな飾り付けに飾り華や花びらが舞い踊る中、馬車から勇者(イケメン)が民衆に手を振り笑っている。

 歓喜と歓声は王国の隅々まで響き渡り、その勇者の功績がどれほど凄い事を成し得たのかは誰もが理解していた。


 勇者一行が城にたどり着くとレッドカーペットを優雅に渡り王様の前で跪く。


「王よ。ただいま帰還いたしました」


「うむ。此度の魔王討伐⋯⋯本当によくやってくれたな。国を代表して礼を言う」


「とんでもございません。私は勇者としてやるべき事をやったまでです」


「そうか。今一度、礼をいおう。此度の件は本当に驚かされたぞ。全てに関して歴代最速とはな。本当にそなたは皆を驚かしその実績を証明してくれた」


「⋯⋯⋯たまたまでございます。それに私一人の力ではなく、この仲間達がいたからこそ、此度の偉業を達成できたしだいであります」


 勇者の後ろで戦士、魔法使い、僧侶が微かに震えていた。


「それにしても、勇者のパーティーに女性を入れていないのも珍しいな。それもまた、最速理由の一つなのか?」


「はい。女性が悪いとは言うつもりはありませんが、やはり女性は裏で支えてもらう事が私の一番の力にもなります。男たるもの守る力が本当の強さかと」


「ははは! そうか。では、勇者よ。お主が望むものはあるか? あるなら申してみよ。できる限り叶える事を約束しよう」


「⋯⋯そうですね。失礼を承知で申し上げますが二つ程⋯⋯お願いがございます」


「ほう⋯⋯二つとな? よいよい、言うてみるが良い」


「まずは一つ目⋯⋯私の名前サブロックを新しい名前マーサーの許可を頂きたい」


「あぁ⋯なるほどのぅ。主はルデン村出身だったな」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【ルデン村】美男美女計画でできた村、顔立ちの良い男女で構成され、その子孫も顔立ちがよい。ただし、その村での美男美女の判定がかなり厳しく数字の名前をもらう事により格差が生まれる。

『例』この勇者でいえば36番目の為、売れ残った為冒険者になるしかなかったのである。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「はい⋯ですので、一つ目は名前の改変許可をお願いします」


「よかろう。勇者サブロックを今この瞬間からマーサーと名乗る事を許可する」


「ありがとうございます」


「それで二つ目の願いとは?」


「⋯⋯できれば、姫を。ティアラ姫を我が妃にしていただければ嬉しく思います」


 姫の名前が出た瞬間に、王は真顔に変わり少し間を空けて息をつく。


「⋯⋯ふむ。お主の気持ちはよく分かったのだが⋯⋯お主も知っておるとは思うが⋯⋯娘の噂は聞いておるな?」


「はい。噂に関しては誰もが知っていますゆえ」


「⋯⋯叶えてやりたいとは思うが、それは我が娘ティアラとお主の問題とする。私から王命を使ってまでティアラを道具として扱いたくはない。私ができる事は姫との茶会や合わせる機会を作る事ぐらいだが、その前に姫が勇者とお茶を飲みたいか⋯⋯からだな。ティアラを呼んでまいれ」


 会場が騒がしくなる。この国の者なら誰でも知っているのだ。ティアラ姫は全ての宝石を例えても足りない程の絶世の美少女であり、その姿を見れば誰もが呼吸をし忘れ、倒れる者がでる程、見惚れてしまうのである。倒れるかもしれない故に滅多にお目にかかれないからこそ、その姿を拝見出来ることだけでも周りが騒ぎはじめる。


 王に大事にされているティアラ姫だが、条件さえ達成できれば姫との婚約はスムーズにいく。普通なら考えられないほどの不可思議さを持ちえているがその理由は明白である。


【ティアラは何かに常に護られている】


 現在では、王が認めた者であればお茶会という謁見(かおあわせ)が認められるが、過去では誰もが会うことができていた。

 

 誰もが会うことはできたーーが、それが姫の異質を表す結果ともなり、条件の困難性=危険性となっていき、今では王の許可なく姫が姿を表すことはなくなったのである。


 その条件は『姫を抱きしめる事』たったそれだけであった。


 ことの始まりはティアラ姫の社交デビュー。少女だが、その姿に、その気品に、その雰囲気に誰もが魅了され近づき挨拶をする。


 挨拶を済ませ手の甲にキスをしようと手を持とうとした瞬間に男は軽く吹き飛んだ。周りが笑い他の男が同じことをしようとすると再び軽く吹き飛び、だれも未だに姫に触れない事に気づいたのである。


 原因を調べようにも、触れぬがゆえに原因は不明、ただ王や王妃は触れることから、いつしか『触れる者』→『選ばれし者』となっていき、現在に至る。


 そして姫が成長するに対して、吹き飛ばす能力も増大していき、現在は王の許可なく姫の側には行くことが許されないのである。


「お父様、呼ばれましたか?」


 可愛らしくぴょこんと姿を表した瞬間に会場は静寂に包まれる。今まで明るかった謁見の間が深淵のような暗闇に感じながらも、その中でただ光を発しているティアラ姫に注目が集まる。


「ティアラ⋯⋯ドレスを来なさいと⋯⋯いつも言っておるだろう⋯⋯」


「ごめんなさい。でも、たったの数分間ですし、その為に数時間もかけて準備をするのも皆様のご迷惑になるかと」


「なら、せめて何かを羽織りなさい⋯⋯」


 ティアラ姫の姿はネグリジェであった。

 が、久々に姿を拝見できたのと、その麗しい姿は核爆弾並みの威力を発したようで次々と呼吸困難で倒れていく。


「それよりもお父様。何かご用事でしたか?」


「あぁ、此度の魔王を討伐をしてくれた勇者が、お主を妻にしたいと申し出たのでな。顔合わせの前にお主が構わないか聞きたかったのだ」


 ティアラ姫が勇者を見る。


「まぁ、この方達が、【紅の魔王】を討伐したのですか?」


「うむ、そうだが⋯⋯」


「それならば構いません。魔王討伐のお話もお聞きしたいので、こちらからもお願いしたいです」


「そうか! ならば、後日その日程を知らせることにしよう」


 ティアラが部屋に戻ると、気絶した者達も続々と目を覚ましていくが、全員が姫の残した香りに恍惚的な表情を浮かべている。


「これ以上は話にもなるまい。これで謁見は終了する」


 城の外でのパレードはまだ続く中、城から恍惚状態から抜け出せない観客がフラフラとゾンビのように出て行くのを最上階から見届けるティアラ姫。


「うーん。香りがすこしキツかったかしら? ここまでの効果がでるなんて⋯⋯まぁ、いいデーターがとれたし良しとしようかな」


 王も知らない事実。ティアラ姫は超がつくほどの魔術オタクであった。吹き飛ぶ原因が不明ではなく、姫の施した魔術によってできた代物が本当の理由だとは誰も知らないのである。

 ただ、その美貌は本物であり、吹き飛ばす魔法も自分を見る男達の眼が耐えられなく生まれた産物であり、もし抱きしめられたら結婚も本人も納得しているのである。


「けど、あの勇者様。どうみても魔王を倒せるような実力は無さそうだけど⋯⋯でも、あの持っていた剣はちゃんと精霊の力が宿っている聖剣のようだし⋯⋯トリス、貴女にはどう見えた?」


「同意見です。秒で数回は殺せるほどの程度かと。剣に関しては私からは良くは見えませんでしたが時間時空関係の精霊だったように感じます」


「なるほどね。だけど、あれだけじゃ魔王は倒せないだろうし⋯⋯まだ、なにか隠してるっぽいね」


「調べますか?」


「そこまでしてもらう必要はないから、お茶会のときにでも探っていくわ。にしても、この結界は外の魔力感知がボヤけるのが難点ね」


「了解いたしました。結界は必要なときに使うでは駄目なのですか?」


「ん〜、まだ全盛期の魔力量には程遠いから、四六時中使って拡張しておかないとね」


「全盛期まで戻すとなると、そのうち階層も上がる予定ですか?」


「それはまだ未定かな。どちらにしろ今の私はお姫様だからね。気軽に階層移動はできないだろうし⋯⋯それに階層を上げ、過去みたいに歴史の魔女に戻りたくないし」


「そうですね⋯⋯過去、歴代に名を連ねる7人の魔法使い全てが転生され続けている貴女とは誰も思ってはいないのでしょう」


「まぁ、トリスも大概だけどね⋯⋯。私と違い私を追うために永遠に生き続けてる事を選んだ初代の私に仕えていた最強の暗殺者」


「拾われたあの瞬間から、私の命は貴女様の為にあります。転生されるーー貴女の魂がある限りは私は貴女と常に共にいますよ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「あ〜やっと終わったな⋯⋯」


「あぁ⋯⋯まじで寿命が半端なく縮んだ⋯⋯」


「俺も⋯⋯っていうかバレたら死刑どころの話じゃないよな? まじで怖いんだけど」


「しかも俺たちにも報酬聞かれたし⋯⋯」


 勇者一行が城下町を歩きながら喋る。


「だから言っただろ? 一緒に来るだけで美味しいおもいができるって。しかも報酬きかれて3人とも言った言葉が『自分の村を少しでも援助』って、まじ吹いたわ」


「いや、何もしてない俺らが報酬なんて貰えるわけないだろうが⋯⋯」


「俺ら3人、数日後には絶対に禿げる」


「ティアラ姫の姿を見れただけで十分だったよ」


「それな」

「それな」


「名前も変えれたしな、このままティアラ姫もゲットして俺は登り詰める」


「っていうか、図々しいにも程があるよな。ロックは俺たちとほぼ毎日飲んでいただけだろう? 偶然見つけた激安の何でも屋に任せてただけだろうに」


「それも含めて運命なのさ。事実この剣の能力は俺にしか使えないんだしな。それにもう俺はサブロックじゃねぇ。マーサーだ」


「なんでマーサーなんだ? 転生者が話した円卓の騎士はアーサーペンドラゴンだっけ? それに似たような名前にするなんて」


「⋯⋯⋯⋯ん、おお、なんとなく頭に浮かんだからだよ。ここらでアーサーよりマーサーの知名度を上げていき伝説になるのもいいんじゃないかってな」


「絶好調だからいいんだけど、知名度が上がれば注目度も上がるからなぁ。気をつけろよ? 運がいい時もあれば落ちることもあるんだからな」


「わかってるさ。で、今からいつもんとこで飲んでいくか?」


「いや、俺たちは一旦村に帰るよ。今回の援助の話しておかないと、急に現れてびっくりするかもしれないからな」


「そうか、じゃあまた今度な〜」


 なんの緊張感もなく、勇者一行はいつも通り飲み屋に行った帰りかのように淡白な別れをしてそれぞれの目的地に帰宅していくが、マーサーはいつも通り酒場で酒を飲み、夜遅くに気持ちよく帰宅しベットにダイブする。


「うぃ〜。本当に何でも屋さまさまだぜぃ。たったの10ゴールドで剣を取ってきてもらい、10ゴールドで魔王も排除してもらえるんだからな〜」


 酒場代と日銭の為に4人で冒険者として森に入っていた時である。強敵に出会い、逃げていくうちに仲間と逸れて彷徨っているときに、たどり着いた小屋。一畳程度の小屋で中は一切見えないが、入り口に『何でも屋一回10ゴールド』が書かれており、ダメ元で強敵を倒してくれと書き投函した瞬間に周囲の気配が消えた。

 もちろん半信半疑だったが、そのあと『安全に街に返して欲しい』と『安全に帰れたら夜遅くにまたここに来たい』を投函した瞬間には街の入り口にいた。


 まるで化かされた気分だったが、仲間と合流したその日は強敵を倒した報酬(証拠は無かったが森が静かになった事が証拠となり)で潤った為、気持ちよく酒を飲み宿に帰り夜を待つと、深夜再び小屋のまえにいた。


 その時は完全に自分に酔っていたのだろう。自分は選ばれたのだと。そして、そのままの勢いもあり『勇者と認められるぐらいの剣が欲しい』と『1ヶ月後に魔王の居城を消してほしい』と書き投函した。


 その結果、翌日には宿に帰ると蒼淡(あおあわ)く輝く剣が部屋に置かれており、その剣を持った瞬間に辺りを明るく照らし『勇者の誕生』と呼ばれる光を放った俺は王城に呼ばれ魔王の討伐を担う勇者となり、1ヶ月後には魔王は消滅し最速で魔王を討伐した者と賞賛されたのである。


 真夜中、酔いが覚めた俺は天井と睨めっこしているとふとこれからのことに対して悪寒が走った。10ゴールドでなんでもしてくれる何でも屋⋯⋯とは一体なんなのだろうと、なぜそこを自分が見つけることができたのだろう? そして見返りや代償は本当にないのだろうかと、考えれば考えるほど恐ろしくなった⋯⋯。だが、動かした時計が元に戻るわけもなく、この結果が俺の死を招くことになろうとも俺は前に進むしかないのだろうとも思わざるをえないのであった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 話は少し遡り、舞台は凱旋の中。


 勇者が手を振りながら王城に入っていく中、民衆とは違い冒険者組合の中は勇者とは関係なしに昼間から賑わっていた。


 勇者とは関係なしとはいったが凱旋の影響はあり、この日に限りエールや料理などが格安で販売され、冒険依頼も緊急性が必要以外はすべて取り下げられて仕事がない冒険者達は料理と酒で休暇の如く賑わっていた。


 賑わっている中、組合の扉が開き女の子が入ってくると全員が注目する。


 真っ赤なウェーブのかかった髪に、オッドアイの瞳。学生服のような服にフード付きマント。可愛いよりも美人な女性はあからさまに幼く見え16歳ぐらいに感じるが、それに見合わぬ程の顔と同じぐらいの胸が強調されており、そこに抱っこ紐と共に赤ん坊がいた。


 冒険者達の間を堂々と進むが、酔った男達からは『相手がほしいなら俺が相手になるぜ』、『その凶悪な乳、俺にも吸わしてくれよ』など挑発を含む声が多くあがるが、少女はフンッと相手にする事もなく受け付けに向かっていく。


「冒険者組合にようこそ。本日はどのような御用でしょうか? 本日は勇者が帰還し凱旋をしている為、依頼などの受付は緊急性があるもの以外はうけつけておりません」


 赤ん坊を連れた少女が来る場所でも無い為、少し威嚇をするように強めの口調で話す。


「依頼などではないわ。冒険者登録をしにきたの。それぐらいならできるでしょ?」


 後ろで冒険者達が爆笑をする。


「⋯⋯登録自体は問題はありませんが、冒険者を何か勘違いしていませんか?」


「してないわよ。冒険者登録すれば冒険者達が入れる場所にいけたり未知な部分を開拓できるのでしょ」


「そういう事を言っている訳ではございません」


「そういう事じゃねぇんだよ。受付のねーちゃんが困ってるじゃねぇか。ようするに命を天秤にかける仕事を甘く見るなってことだよ。ガキ連れの少女が命をかける仕事に『はい、そうですか』って冒険者登録を承諾するわけがないだろうってことだよ。それぐらい分かってやれよな」


「そうそう、ガキの育成費が必要ならどっかの男に養ってもらえよ。その容姿にその乳袋なら誰でも貰ってくれるぜ? もちろん俺も大歓迎だぜ」


 他の男達もヒヒヒッと酔った勢いで賛同していく。


「お分かりになったでしょう? 今の発言は本来なら注意したいですが、冒険者達ではこれも普通なのですよ。ソロ活動ができる者もほんのひと握り、誰かとパーティを組んだとしても貴女がパーティに襲われる可能性も高いのです」


「あぁ、なるほどのぅ⋯⋯」

 オッドアイが一瞬、妖艶に光る。

「冒険者登録は私がするのではありませんわ。登録するのはこの赤ちゃんですから」


『⋯⋯⋯⋯は??』


 全員が唖然とする中、赤髪の少女は堂々とした口調でハッキリと言う。


「この方は私の子ではなく旦那様です。いまは呪いのせいでこのような姿になっていますが、その呪いを解く為に階層を跨いででも色々な場所に向かうしかなさそうなのです」


 堪えきれなくなった冒険者達が今までにない大声で大笑いする。受付嬢も堂々とした口調に笑いを堪えながらも堪えきれず漏れていた。


「はぁ、まぁこれが『人』よね。目に見えるモノが全てと感じる性(さが)」


 ある程度、笑い狂った冒険者が落ち着きを取り戻した一人が、『なら、俺とその赤ん坊戦ってやろうか? 負けたらなんでもいう事聞いてやるよ。俺が勝ったらねーちゃんを好きにさせてもらってもいいのならな〜」と、言った。


「それ⋯⋯悪くない案ね。なら、ボーナス依頼を出すわ」



【クエスト依頼書】

 内容:赤ちゃんとの戦闘(泣かせば勝ち)

 受注人数:制限なし

 報酬:白金貨100枚(人数割)



 それを見た受付嬢が目を丸くし驚愕する。


「これを受け付けた場合、報酬内容を破った場合は法律違反として刑罰もありますがよろしいのですか?」


「えぇ、構わないわ」


 それを見に来た冒険者の男が舌打ちをする。


「おいおい、報酬にねーちゃんが入ってねぇじゃねぇか? どうせなら戦った者達のどれかの子供を身篭るってのも入れておいてもいいんじゃないか?」


「そこまでは⋯⋯!」

「構わないわよ」

 受付嬢がさすがに止めようとしたが、それを遮るように少女が言う。


「なら、ゴブリンに捕まった時のような扱いでいいわよ? 四六時中どんな時でも私はいつでも裸でいるし、いつでもどのような時でも使っていいわ」


 その言葉に男の喉が鳴る。


「⋯⋯⋯⋯これが最後通告です。本当に依頼を受け付けてよろしいのですか⋯⋯ムキになっているのであればやめてください。貴女にはまだ未来があるでしょう?」


 受付嬢が悲痛な顔をしながらも、首を振る少女に完了の判子を押す。


「おめぇらーボーナス依頼だ。白金貨100枚に高級娼婦付きだぜ。ん? そういえばねーちゃんは処女か?」


「えぇ、旦那様に捧げる為に処女にきまってるでしょ」


「なら、初めては後で相談するとして受けるやつは立て! 流石に気が進まないと思う奴や可哀想だと思った不参加野郎は座っていろ。こういう現実を教えるのも冒険者の役割だとおもっているからな!」


 ほとんど全員がたつが、中には泥酔して立てないものや寝てる者、気が進まないとのは端っこに寄らされた。


 その間に少女は抱っこ紐を緩め、赤ちゃんをゆっくりおろす。


「では、旦那様。あとはお願いしてもよろしいですか?」


 黒髪の赤ちゃんはその少女にため息をついていた。


 冒険者達と見つめ合う赤ちゃん。


「先程まで泣きそうだったのに、堪えたのかよ。どうやって泣かされちゃいでちゅか?」


 世紀末系の漫画にでてきそうな悪者顔で赤ちゃんに近寄る冒険者達。


「ばぶ」


 赤ちゃんが小さな手で中指をたてる。


「なんだ? それえぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 次の瞬間には立っていた冒険者全員が物凄い勢いで天井に突き刺さる。


「ばぶばぶぶ」


 中指を立てていた手が親指に変わりそのまま180動かして親指を下にする。


 天井につきささった冒険者達が親指に連動するかのように身体を回転させて床に突き刺さると天井が崩れ落ちた。


『⋯⋯⋯⋯⋯⋯』


 受付嬢は恐怖に震えていた。


「お見事です、旦那様! それに、わざわざ防御系の保護もしてあげて殺さないように加減をしてあげたのですね」


「う〜う〜」

 赤ちゃんは両手を前に出しゆっくりとフリフリと振る。


「はい。また私の胸に沈んでいてくださいね」

 そう言いながら抱っこ紐を元の位置にかけ直すと受付嬢の方を見る。


「⋯⋯ひぃ!」


「怯えないでくださいな。これでお分かりいただけましたか? 旦那様の呪いを解く為に冒険者になるしかないという事を」


「は⋯⋯はい! では、直ちに登録いたしますので少々お待ちください!」


 暇なこともあり登録は一瞬で済んだ。


【冒険者カード】

 名前:柊 つみき

 ランク:E

 

「ステータスなどの表示はないのですね?」


「えぇ⋯⋯基本階層ごとに限界値が変わるので名前とランクのみです。階層をわたるにはランクSまではいかないと許可はおりません。それか勇者のような功績を残せば上の階層にはいくことができます。


「なるほど、どうもありがとうございました。それと組合を半壊したお詫びではないのですが、白金貨をそのまま寄付いたしますので修繕にでもお使いくださいな」


 天井が落ちた瓦礫に足という花が咲いているのを気にせず踏み歩き組合を去っていった。


「ばぶばぶ」

(お前、いい加減にしろよな。女の子だから自分の身体は大事にしろよ)


「でも、ああ言わなければ即座に泣いていましたよね?」


「ばぶ」

(それはそうだろ。方法なんていくらでも考えればいいんだし、わざわざ迷惑をかけるほどでもないだろう)


「そこが貴方の悪いところですよ。前世ではどうかはしりませんが、この世界は使えるものは使うべきです」


「ば〜ぶ」

(元の姿に戻りたい気はするけど、まぁ人知れず篭れば好き勝手には生きていけるからなぁ。今回の最優先はのんびり暮らすだ)


「だからですよ。この『紅の魔王』スカーレットと呼ばれる私も非戦闘民の同胞もすべて受け入れるとか、のんびり暮らすなら消滅させてしまった方が早かったでしょう」


「ばぶばぶ」

(それはそれ。なんで姿が違うだけで殺さないといけないんだ? 矛盾があるだろ? そんなしょうもないルールに縛られる訳がないっつーの)


「ふふ、まぁ今日の用事は済みましたし我が家に帰りましょうか」


「ばぶばぶ」

(了解だ。ただ帰る前に美味そうで見たことのない食べ物は全部買って帰るようにしてくれ)


「了解です♪」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 この物語は、


【最強転生魔女姫】

【不老不死暗殺メイド(冥土)】

【弱小勇者】

【主人公:赤ちゃん】

【????????】


 が、適当に生きていく物語である。

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