第58話 私を頼ってくれたってわけ?


「まあ、とにかくだ。問題は、宗一郎と相思相愛のキューピッドを、どうしたら雲の中の森に帰ってもらえるかだな。全員がそろわなきゃまずいんだろ」

「そうね。九匹そろわなきゃソリは絶対に動かないの」

「おおごとじゃないか」

「まあね」

 軽く頷いてくれる。それでも自分のことを棚上げしたことを少しは気にしたのか、ミートドリアをきれいに平らげたダンサーは言った。

「キュー姉のことを説得してみるとか?」

「説得な……。正直言っていいか。一ミリも説得できる自信がない」

「一ミリも?」

「なんていうか、昨日、俺にお願いしてきたキューピッドは、本気だったんだ。あまりにも想いが真っ直ぐというか。あんなチャラ男はやめろって、言える雰囲気じゃなかった」

「意気地なし」

「うるせー」

「じゃあ、その逆。男の方を説得したらいいんじゃない?」

「宗一郎を?」

「キュー姉は俺のものだ。手を出すな。お前になんか絶対やらない! って、断言するの」

 かっこいい。まるで物語の主人公みたいにかっこいい発言だ。

 でも、俺は自意識過剰じゃないから、キューピッドの気持ちが俺になんかないことを知ってるし、その上でそんな大嘘は言えない。

「無理だ」

「どうしてよ。ちょっと言うだけでしょ」

「そもそもキューピッドは俺のものなんかじゃないし」

「はあ? キュー姉があんたのものになる日なんか一生ないわよ」

 グサッとくる。ダンサーの言葉が刃となって俺の胸を指した。

「そ、そんな、はっきり言わなくたっていいだろ……」

 俺が涙目になっていたからだろうか、ダンサーは呆れたような溜息をついて肩をすくめた。

「キュー姉も説得できない、その男に対して嘘すらつけない。ここにはパパもいないし、ドナ姉とブリ姉も見つかってないのよね?」

「そう、だな」

「お手上げじゃない」

「いや、でも、そんな簡単に諦めちゃまずいだろ。他になにか方法があるはずだ」

「どんな方法があるの?」

「それを考えたくて、お前と話してるんだ」

 ダンサーは桃色の瞳をぱちぱち瞬かせた。

「そう。私を、頼ってくれたって、わけ?」

「そうじゃなきゃここに来てない」

「ふぅん」

 ダンサーは両手で頬杖をつくと、すごいジト目で見つめてくる。小さな顔と大きな瞳が強調されて落ち着かない。

 なんだ。俺、なんか変なこと言ったっけ?

「分かったわ。私もちゃんと考える。でもね、キュー姉のことなら、他の姉妹達にも話しを聞くべきだと思うの。だから、はじめましょう」

「はじめる? って、なにを」

「第五百六十一回、トナカイ会議を」

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