第57話 二人の出会いは


「いや、俺も驚いたよ」

「なんでキュー姉が人間の男なんかに恋するの?」

「ああ、それはだな……」


 キューピッドから聞いた話によれば、二人の出会いは道ばただったらしい。


 『森の猫カフェ』に向かおうとして道に迷い、困り果てていたキューピッドに声をかけたのが宗一郎だった。二人は無事に『森の猫カフェ』にたどり着く。


 だがしかし、当のキューピッドは店が完全予約制であることも知らなければ、お金もあまり所持していなかった。そんなキューピッドを見かねた宗一郎は、一緒に猫カフェに入ることにしたのだと言う。キューピッドはそんな宗一郎に、俺と当初会った時とまったく同じ発言をした。


 つまり。


「お金がない代わりに、この身を好きにしてください」と、のたもうた。


 そんなキューピッドに宗一郎は笑ったのだと言う。笑顔で優しく諭した。その笑顔がキューピッドには眩しかったらしい。


「俺も笑って諭せばよかったのか?」


 キューピッドを風変わりな女の子だと認識したらしい宗一郎は、二人でいる時間を一緒に楽しんでくれたらしい。

 同じように猫が好きで、同じようにココアが好きで。

 話さなくても心地よい空気で包んでくれる宗一郎に、キューピッドは胸の高鳴りを覚えたらしい。


「俺も猫は嫌いじゃないし、なんならココアだって飲むぞ。話さなくても心地いい空気感をかもし出してた」


 もう一度会いたい。

 宗一郎と別れたあとで、キューピッドの想いは募っていった。


 俺と出会い、俺が他の姉妹達の願いを聞いて叶えていく姿を見て、キューピッドも欲が出た。

「春風宗一郎様のことが好きです。だから雲の中の森には帰りません」

 そのあとには続きがあった。

「三田様にお願いがあります。私を春風宗一郎様と、お付き合いできるように、取りはからってはくださいませんか」

 そう頼まれて、俺は目の前が真っ暗になったのだ。


 ミートドリアが運ばれてきた。ダンサーは湯気のたつミートドリアをスプーンですくうと、ふうふう息を吹きかけて口に運ぶ。「ふぅん」と頷いた。

「あんたって、キュー姉のことが好きだったの?」

「は?」

「いや、なんか、ごちゃごちゃ私情が混ざってたから」

「まじか!」

 俺は両手で口を塞ぐ。ダンサーは白けた目で俺を見つめた。

「でもどのみち無理でしょ。だって、あんた達はただの人間で、私達はパパに選ばれし聖なるトナカイなんだから。格が違うのよ」

「はあ……」

 そうきっぱりと言われてしまえば、そうですかとしか言えない。ダンサーは不服そうだ。

「そもそも、なんでパパがいるのに、ただの人間の男なんかに興味を示すの?」

「ああ。お前はパパ信者だもんな」

「なによ。パパよりすごい人がいるわけないじゃない」

「分かった分かった。分かったから、落ち着け」

 ダンサーがむくれるので、どうどうなだめる。

「まあ、ダンサーはそうなんだろうよ。でも、トナカイ全員が全員、考えを同じにしてるわけじゃないだろ」

「みんなパパのことが好きだわ」

「いや、それはそうかもしれんが、お前達は性格も全然違うし、好きの度合いもトナカイそれぞれなんじゃないのか」

「分からない」

 そう言われてしまえば元も子もないな。俺はコーヒーを啜り、ふうと息を吐き出す。ダンサーは難しい顔をしてミートドリアを口に運んでいく。

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