第59話 トナカイ会議

 

 なにそれと、思った。


 なにそれって思ったけど、ダンサーはあくまで真剣だったから茶化すのはやめた。

 第五百六十一回とかいう、細かな数字をいちいちつける必要なくね? って思ったけど、本人達が気にしてないなら俺が口を挟むことでもない。


 いわゆるトナカイ会議とは、これまでトナカイ間で問題が勃発するたびにトナカイ全員で話し合ってきた会のことらしい。

 最年長の姉達が欠けているが、情報を共有し、それぞれの意見を参考にした方が解決も早いのだそうだ。


 だったらはじめからトナカイ会議を開催すれば、これまでの問題も片付いたのではいか、という意見は置いておく。会議するほどのトナカイが集まっていなかったしな。


 場所は俺の家。

 キューピッドが買い物に行っている間に行うことになった。この日のために午後から半休とって、俺は駅で待ち合わせたダンサーを連れ自宅に帰った。


「おっかえりー、サンター! ようこそー、だんちゃん!」

 いの一番に抱きついて出迎えてくれるルドルフ。こたつにはすでにトナカイ達が揃っていて、テーブルの上には飲み物やお菓子が設置してあった。

「狭くて小汚いところですが、どうぞですわ」

「まあ、三田の家だからな。気楽にくつろげよ」

「うむ。でも、このこたつはなかなかによいものぞ」

「ぬくぬく」

「人ん家占領しといて言いたい放題だな!」

 こいつらはほんと。すっかり馴染んでるくせして、好き勝手言いやがって。

 俺はルドルフを抱えたまま、ダンサーを空いている場所に通す。ダンサーはゆるふわウェーブの髪を手で払って、ちょこんとこたつに入った。

「なにこれ。あったかい!」

「ねっ。いいよね、、おこた。あったかくて気持ちよくなってねむいの」

 ダンサーの隣に座り身を寄せたルドルフが眠そうに言う。っていうか、寝た。

「ちょっとチビ。私にもたれて寝ないでよ」

「ルドルフ、起きろ。これから大切な話があるんだから」

 ダンサーに起こされて、ルドルフは寝ぼけ眼を手で擦った。

「これはトナカイ会議と聞きましたわ。キューお姉様がいらっしゃらないみたいですが、よろしいの?」

 ヴィクセンが小首を傾げる。議題についての説明はまだだった。

 プランサーが俺とダンサーの分のお茶をコップに注いでくれる。

 俺はダンサーをちらりと見てから、こほんと咳をした。

「ええと、今回みんなに集まってもらったのは、他でもない。キューピッドのことなんだ。だから、キューピッドがいない間に話し合いを終わらせたい。実は先日のことなんだが―――――――」

 俺はトナカイ達に先日の出来事を聞かせた。ふんふんと話を聞いていたトナカイ達の表情は驚きに変わった。

「まじかよ……」

 ダッシャーは苦い物を飲み込んだように言う。

「キュー姉上が……」

 プランサーが口元を抑えた。

「人間に恋を、してらしたのですね」

 ヴィクセンは赤霧島の抱き枕をぎゅっと抱きしめていた。

「切ないですわ。なんとか、なりませんの?」

「なんとかって?」

 俺が尋ねると、ヴィクセンは考え考え言った。

「ですから、キューお姉様が、そのお方と一緒になれる方法ですわ。キューお姉様には雲の中の森に帰っていただかなければ困りますので、その方に一緒についてきていただくとか」

「バカじゃないの?」

 間髪入れずダンサーが言う。

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