第42話 ダンサーの夢
「きらいもなにも、なにもない。私はあんたのことなんか知らないもの」
「デスヨネー」
「あんた、なんなの?」
「なんなのって?」
「私達をどうする気?」
「どうするって?」
「だから、私達、トナカイを集めてなにをするつもり? なにを企んでるの? ルドルフは子供だからなにも考えてないし、ダッシャーは勢いしかない阿呆だし、プランサーは刀にしか興味ない刀オタクだし、あなたに騙されてしまうのもまだ分かるの」
えぇ、ひどい言われようだな。
「だけど」と、ダンサーは眉をひそめる。
「しっかり者のキュー姉までがあんたのそばにいる」
「キューピッドは言うほどしっかりしてるか?」
「あんたにキュー姉のなにが分かるのよ?」
なにが分かるかと問われれば、なにも分かってないような気がしてくる。
ダンサーはふんと鼻を鳴らした。
「ルドルフに姉達を一緒に探してほしいってお願いされたからだと、あんたは最初に説明してくれたけど、私達がただの小娘じゃないと知ってなお協力しているなんておかしな話。普通の人間はそこまでしないわ。私達を探して、うまく言い寄って集めて、なにするつもり? 私達は外見だけならきれいでかわいいし、裏社会の怪しげな組織に高値で売り飛ばすつもりなんでしょ」
「そんなことせんわ!」
ダンサーはその目をジト目にしただけだった。
「待って、どういう想像力? いや、言わんとしてることは分かるが、まあ、分かるが……。俺は好きでお前ら姉妹を探してるわけじゃない。ルドルフに頼まれて仕方なくだ。だって、お前ら姉妹をそろって雲の中の森に帰さなきゃ、サンタのおじさんが困るんだろ。そんで、クリスマスに世界中の子供達が悲しむことになるんだろ。そういう事情なら協力しないわけにいかないだろ」
「パパが困ろうが世界中の子供達が悲しもうが、あんたには関係ないでしょ。なのに協力しなきゃいけないって意味分かんない。人助けのつもり? 偽善者なの?」
「ぐっ。そう言われてしまえば、ぐうの音も出ないが」
「ただ優しいだけの人なんていないわ。表ではいい顔しても、裏ではなに考えてるか分からない。それが人ってものよ」
「なんかあったの?」
「え?」
「捻くれすぎじゃね?」
ダンサーは珊瑚色した唇を尖らせた。
「メイド業界は足の引っ張り合いだもの。女の子の世界は恐いわ。トナカイの間だってそう。みんな私のことを本心では口うるさい子供だって思ってるのよ。そうでなきゃ、あんなにコロリと態度を変えるわけがない」
「態度を変える?」
「ルドルフがソリ引きに選ばれた時、一番下の妹にみんな夢中になった。それまで、かわいいかわいいって優しくしてもらえてたのは私だったのに、変わってしまった。ルドルフが現れて私は逆に疎まれる存在になったの。私はもういらないの。だから、私は私を必要としてくれる人達、ファンのために生きていけばいいって決めたの。ファンの人達は優しい。こんな私にわざわざ会いにきてくれる。好きだって言ってくれる。私を愛してくれる人達のために、メイド喫茶で場数を踏んで、ステップアップしてナンバーワンになって、さらにアイドルとして武道館を目指すの。私には夢があるから、絶対に帰らないの」
真っ直ぐに前を向いて夢を語る。
その横顔は可憐さよりも凜々しさが勝っていた。
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