第43話 求めていたもの
「そうかねぇ」
でも俺は首を捻る。
「本当にそうか? ルドルフのせいで、他の姉達がお前への態度を変えたって言うけど、本当にそうか? お前はそもそも一番末っ子だった頃から、逆に姉達の面倒をよく見てたんじゃないのか? だから姉達も、ダンサーのことを助けなきゃいけない妹から、実は頼れる妹ってポジションに意識が変わっていった。そこに子供すぎてどうしようもないルドルフが加わって、一気に保護の目が向いたんだと思う。お前は口うるさいだとか疎まれるとか言うけど、自分で勝手にそう思い込んでるだけだろ。そんな性格を変えられなくて、居づらくなって、地上に逃げたんだ」
ダンサーはかっと眉を吊り上げた。
「うるさい! あんたになにが分かるっていうの!? なにも知らない。ただの平凡すぎる人間のくせして!」
「いや、ただの平凡すぎる人間ですみませんだし、ダンサーが置かれてた状況は知らないけど、でも想像することはできる。ダンサーがどういう気持ちでいたのか。どうして帰れないのか」
俺が出会ったトナカイの姉達は個性豊かだ。
そんな姉達をまとめようとしたダンサーを思い浮かべれば、苦笑いしか浮かばない。
ダンサーなりにした努力は空回り、ルドルフの登場でさらに開いた心の溝を、ダンサーは埋めることができなかった。
「ひとりぼっちだと思ったんだな。誰にも理解されない状況は、確かにきつい」
はっとしたようにダンサーは目を見開く。
「でも、まだ諦めるのは早いだろ。メイドだのアイドルだの武道館だの夢を語る前にやるべきことがある。ルドルフのせいにしちゃいけない。姉達の気持ちを勝手に理解して傷つくのも違う。捻くれるのはほどほどにして、素直な気持ちを口にしてみたらどうだ。お前が本当に思ってきたこと、感じてた思いをぶちまけてからでも遅くない。お前の姉達だ。それこそ、裏の顔なんか分かりゃしない、知り合ってまだ日も浅いファンなんかより、絶対にお前のことを分かってくれるし受け入れてくれる。俺はそう思うよ」
ダンサーははじめて弱ったような顔をする。
赤いその唇を噛みしめてから、ゆっくり開いた。
「……………………ぱぱも?」
小さく小さくつぶやく。
ああ、そうか、と俺の中でようやく腑に落ちた。
ダンサーが求めていたのは姉達からの愛情だけではない。
憎まれ口を叩いて一丁前を気取って、誰よりも真面目に真摯に仕事に向き合っていたのは、彼がいたからなのだ。
サンタのおじさんってのは、こんな子を狂わせてしまうほどに魅力があるもんなのかね?
たっぷりの白髭をたくわえた、派手な衣装のおじさんを思い浮かべて苦笑する。
それでもダンサーにとって唯一無二の飼い主で、他のトナカイ同様、心から慕っている主人なのだろう。
「ああ、そうだ。それとも、サンタのおじさんってのはそんなに度量の小さい人なのか」
「そんなわけないでしょ。パパは本当にすごい方なんだから。誰よりも素敵で、誰よりもかっこよくて、誰よりも、優しいんだから……」
「だったら大丈夫だろ」
信じたいのに信じ切れなかった。
誰にも弱みを見せられなくて、それこそ、泣き顔なんて絶対にさらせない。
ダンサーは両手で顔を隠して背を向けた。
それでも俺の隣から離れることはなかった。
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