第41話 なんでこの子、こんなにつっけんどんなの?
ザ・日本のお家。立派な黒い梁が渡された天井。いい匂いのする畳。火鉢にかけられた鉄製のヤカンから立ち上る湯気。
古き良き時代を感じさせる和室は暖房が効いていてあたたかかった。
白尾少年の母親だろうか。優しそうな女性が緑茶と茶菓子を出してくれた。
プランサーから一通りの説明を聞いた久地楽じいさんは「ふむふむ」と相槌を打った。
「ま、やるだけのことはやってみるわ」
プランサーの刀を手に和室を後にする。その後をプランサーも追いかけていった。刀の修理にも興味があるのだという。将来は鍛冶屋にでもなるのだろうか。勉強熱心なことだ。
俺は茶菓子として出された最中を口に入れる。ゆず風味の白あんがうまい。障子で仕切られた廊下の向こうはガラス戸になっていて、よく手入れされた中庭が見渡せた。茶を啜ってふうと息をつく。いい静けさだ。
「まさにワビサビって感じだな」
「なに言ってるのよ」
隣から不機嫌そうな声がした。
部屋には俺とダンサーだけが残されていた。それをすっかり忘れてた。
ああ、そうだ、この子が一緒だったんだった。
「お前はプランサーと一緒に行かないのか?」
「刀なんて興味ない。あんたが行けばいいじゃない」
「いや、俺も特に興味ない」
ダンサーは他に人がいないからか、すでに正座から足を崩している。その桃色の瞳は畳の上を見つめていた。
会話が途切れる。俺はずずっと茶を啜った。
気まずいな。
「最中うまいぞ。食べたらどうだ」
「いらない」
「まあ、そう言わずに。最中食べたことあるか? 皮はぱりぱり、中はあんこでしっとり。緑茶によくあう」
「いらない」
「……さいですか」
茶を啜る。もう残りの茶が少ない。
おかわりがほしいが、白尾少年の母親が姿を現すことはない。
さて、どうしたもんか。
プランサー戻ってこないかな。っていうか、修理ってどれくらい時間がかかるんだ?
「京都のことは知ってたんだっけ」
「名前とだいたいの場所だけ」
「一度も来たことないのか」
「地上に降りたことはない」
「そうか。寺や神社がたくさんあって人気の観光地なんだぞ。あとでちょっと見に行くか」
「いい」
「それじゃあ、うまいもん食べるか。えーっと、そうだ、京スイーツとか」
「いらない」
「そ、そう」
ねぇねぇ、なんなのこの子。なんでこんなにつっけんどんなの。
表面はきゅるるんって感じで、守ってあげたくなっちゃうようなあざとかわいさをかもし出してるくせに、裏表激しすぎない? 裏面素っ気なさすぎない?
それとも俺と会話するのがいやなのか?
「俺のことがきらいなのか。そうなのか」
「は?」
あ、まずい。心の声がぽろりと口から出てしまった。
ダンサーはようやく俺に目を向ける。
なに言ってやがんだこいつ、って顔をした。
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