第40話 ダンサー、恐ろしい子。
さすがはメイドでアイドル。人を手玉にとってなんぼの仕事をしてるだけあって、転がし方のうまいこと。
あざとい。
俺でもあんな風に接せられてお願いしたら絶対聞いちゃうスタイルだよ。
あざとい!
ほら、久地楽少年なんて本当に子供で、免疫ないからめちゃくちゃ顔を真っ赤にしてるじゃん。ダンサーの魔力に捕らわれてる!
どうする? どうする? 久地楽少年。決断はいかに?
「これ、
甘い雰囲気をぶち壊すだみ声が聞こえて、門の隣にある戸口が開いた。出てきたのは紺の作務衣を着た白髪の老人だ。
「あ? 誰や?」
老人は泣いているプランサーときょとんとしているダンサーと、最後に俺を見て強面の顔をしかめた。
「じいちゃん、あの……」
白尾と呼ばれた久地楽少年は頬を染めたまましどろもどろとなる。
「この人達、今日が定休日って知らなかったみたいで、その、居合い用の刀を修理してほしいって言われて。今、断ったんだけど、でも、その、今日しか京都にいられないみたいで、困ってて……」
「ほう」
どうやら久地楽少年の祖父らしい。
老人は久地楽少年とよく似た切れ長の目でもう一度俺達を、特にプランサーとダンサーを睨みつけた。
恐い。迫力がありすぎて恐い。
ここは手っ取り早く謝って帰るのがいい。
「あ、あの、お騒がせしてどうもすみませんでし――――――」
「ええで」
「は、は?」
「ええで。嬢ちゃん達か、刀を修理してほしい言うんわ」
「そうです」
立ち上がって姿勢を正しにっこりと笑ったのはダンサーだ。
「どうか、お願いできますか?」
眉を下げ、顎に指を添え、ちょこんと首を傾げた。
斜め四十五度で見つめるダンサーに、老人はぽっと頬を赤らめた。
「ええでええで。休みやし、順番待ちではあるけど、今回は特別や。さっ、こんな寒いところで立ち話もなんやろ。入った入った。白尾、さっさとお使い行きや」
え―――――――――――――。
ダンサーはプランサーを立たせると、老人に案内されるままに戸口から入っていく。
残された俺と白尾少年は同じ気持ちだっただろう。まさに。
え―――――――――――――――――――――???
だ。
お互い顔を見合わせてしまった。
白尾少年は気まずそうな顔をすると、すぐに踵を返して歩き出す。なにがなんだかだ。
っていうか、プランサーやダンサーは白尾少年に頼み込んでいたが、よく考えれば中学生が刀の修理を担当してるわけがなかったんだよな。
早く保護者に繋げばよかったのだ。
いやでも、保護者に繋いだところで定休日なことは変わらないし、門前払いを受けて当然。だから白尾少年は早々と手を打った。はずだった。
まさか、出てきたじいさんがあっさり仕事を受けちゃうなんて、思いもしなかったよな。俺だってそうだ。
ダンサー、恐ろしい子。
遠ざかっていく白尾少年の背中を見送って、俺も戸口をくぐった。
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