第27話 ダンサーの言い分
ダンサーは頬杖をついたまま言う。
「どういうってそのまんまの意味だよ。せっかく楽しく過ごしてたのに、見つかっちゃったってことは帰らなきゃいけないんでしょ。つまんない」
「当然です。私達が帰らないとサンタお父様が苦労されるんですよ」
「そうかな? パパってば万能超人だから、実際問題私達がいなくたって一人で仕事こなしちゃいそうなんだけど」
「そんなことありません。サンタお父様に選ばれて、仕事を与えていただけた恩を忘れたんですか」
「そりゃあ選んでもらえて、こんなにかわいい姿を与えてくれたことはありがたいけど、私にとってソリを引くことは天職じゃないんだよね」
「それじゃあ、あなたの天職はなんだって言うんですか?」
「それは、かわいい格好して歌って踊ることよ。みんなが私を私として見てくれる。愛してくれる。最高に気持ちいい、まさに私の天職だよ。だから私は帰らない」
キューピッドが表情を曇らせる。
なんか険悪な雰囲気になってきたけど、大丈夫か?
「ダメだよ、だんちゃん」
のほほんと口を挟んだのはルドルフだった。
「ここにはかんこーに来ただけだよ。だからみんなで一緒にサンタパパのところに帰らないと、サンタパパが心配するよ」
「いやよ。パパは心配なんかしないし、私一人いなくたってソリは引けるでしょ」
「そんなことない。だんちゃんがいなきゃだめだよ。だんちゃんはみんながきれいに見えるようにいつも毛並みを整えてくれるし、みんなの歩幅がバラバラになった時も注意してくれる。誰よりもしっかり屋さんのだんちゃんはいつもすごくて、ステキだなって私思うの。だから、だんちゃんは絶対必要なの」
ルドルフは無邪気に語った。
「確かにな」と、ルドルフに乗っかったのはダッシャーだ。
「ダンサーほど真面目なトナカイはいないよな。姉妹一頼りになる」
「うるさい」
ダンサーは低くつぶやいた。甘く漂っていた空気が霧散した。
「黙って聞いてれば好き勝手なこと言って。私は好きでしっかりものになったんじゃない。真面目でもないし頼りにされたいわけでもない。あんた達姉妹があまりにも自分勝手でだらしないから、結局末っ子の私がしっかりせざる得なかったんでしょ。そんなことも分からないで、知ったようなこと言わないで」
「末っ子って、一番下はルドルフだろ」
ダッシャーがおっかなびっくり言う。それが引き金になったのだろう。
「このチビが来るまで私が一番下で、一番かわいかったの! みんなみんな、大っ嫌いだったのよ! だから私はもう絶対帰らない!」
ダンサーは完全にへそを曲げるとマイゼリアを出て行った。
俺達はその姿をぽかんと見送ることしかできなかった。
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