第26話 いちいちかわいい

 

 メイド喫茶を出た後5時までまだ時間があったので、近くをぶらぶらして、ダンサーに指定されたマイゼリアで時間を潰した。


 夕暮れ時のマイゼリアは男性客が多くほぼ満席に近かった。

 三人のトナカイ娘達ははしゃぎ疲れたのかソファで寝息を立てている。

 暢気なもんだ。

 俺は何杯目になるか分からないフリードリンクのコーヒーをおかわりして、持ってきていた文庫本に目を落とした。


「お待たせしました」

 ほどなくして甘い声が背後からした。


 振り返るとそこには砂糖菓子を人の形にしたような女の子、ダンサーが立っていた。メイド服と違ってシンプルな服装だ。

 白いだぼっとしたニットにタータンチェックのプリーツスカート、ニーハイソックスにショートブーツ。

 ダンサーは長い袖の先からちょこっとだけ見えている指先を合わせると小首を傾げた。

「遅くなって、ごめんね」

 きゅううううん。

 なんだ、天使か! 天使がここにいて、俺のハートを射抜いたぞ!

「い、いや、別に、大丈夫。お疲れさま。なにか飲むか。それか腹が減ってるならなんでも食べていいぞ」

「それじゃあ、あったかいココアが飲みたいな」

 ダンサーは俺の隣に腰を下ろすとにこりと言った。

 俺はすぐさま店員を呼んでフリードリンクを追加し、ホットココアを取ってきてやる。

 ホットココアを受け取ったダンサーはカップにふうふうと息を吹きかけると一口飲んで「おいし」と言った。

 なんだろう。

 トナカイは美形一族なのか、ルドルフもダッシャーも、もちろんキューピッドも造形が整っている。

 だが、このダンサーという少女はまた独特な可憐さがあった。

 見た目は中学生くらいか。それなのに仕草が丁寧で、いちいちかわいい。

 そう、いちいちかわいいのだ!

「どうしたの?」

 その桃色の瞳と目が合うと、ふふっと微笑まれた。

「あ、いや、その……。君も、トナカイ、なんだよな」

 ダンサーはゆっくりとココアのカップをテーブルに置く。

「あなたはどちら様なの? きゅー姉様達と一緒にいるけど、一体どういう関係?」

 声の響きは甘い。

 だが、俺を見つめるその目には警戒の色があった。

 そりゃあ当然だろう。

「あ、俺は、三田黒須っていいます」

「さんたくろす?」

「あ、名前がちょっと変わってるだけで、普通の人間だから。ただの、人です。最初にルドルフと会って、姉達とはぐれたから一緒に探してほしいってお願いされたんだ」

「ふぅん」

「君達がサンタクロースのトナカイで、日本に観光に来たことはルドルフから聞いた。それで、次にキューピッドを見つけて、今日原宿でダッシャーを見つけた」

「どうやって?」

「え?」

「どうやって、私を見つけたの?」

「それは、ルドルフの赤い鼻と、あとは秋葉原についたら看板に君が載ってたから」

「そっかぁ」

 ダッシャーは伸びをすると、ふううううと大きく溜息を吐き出した。

「もう見つかっちゃうなんて、最悪」

 机の上に両腕で頬杖をついて、ぷっとむくれる。

「どういう意味ですか?」

 尋ねたのは俺じゃない。いつの間にかキューピッドが起きていた。

 ズレていたメガネを直し、よだれでも出てたのか口元を拭うと背筋を伸ばす。

 キューピッドが動いたからか、もたれて寝ていたルドルフとダッシャーも目を覚ました。

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