第25話 桃色のあの子
桃色のウエーブがかった長い髪はハーフテールになっていて、大きな赤いリボンが二つついている。
髪と同色の大きな瞳で上目づかいに見つめられ、ジューシーな桃を思わせる唇から甘い声で話しかけられれば男はイチコロだろう。
コンサートは全部で三曲あり、その後即席のCD販売&握手会が行われた。
ダンサーは五人のメイドさんの一番最後に並んで、一人一人を送り出す係になっているようだった。
コンサートが終わった後、ルドルフとダッシャーにCDが欲しい握手がしたいとせがまれて結局四人分同じCDを買うことになった。
あああ、俺の金が無駄にどんどん消えていく。
でも、こうでもしなきゃダンサーに接触できないと意識を切り替え、握手を待った。
うさ耳の子、羊耳の子、猫耳のセンター、犬耳の子と、順に握手していく。
どの子もこんな俺に一生懸命話しかけてくれるし、手をぎゅっと握ってくれるし、俺のハートもぎゅっとわしづかみにされて、なんだこれ、はまりそう……。
ふわふわした気分で最後にダンサーと握手をしたら、その手の柔らかさにびっくりした。
「こんにちはぁ。今日は見に来てくれてありがとうございます。ダンサー、とってもうれしいなぁ」
なんか。なんだこれ。
花だ。
桃の花びらがこう、ぶわぁって飛んでくるし、なんか、キラキラして、目がチカチカするんだけど、なんだこれ。
「あ……う、えと」
「今日は、どちらからいらしてくれたんですかぁ?」
軽く首を傾げ、斜め四十五度の角度から俺を攻めてくる。
どもってる俺に考慮して、優しく優しく話しかけてくれてるだけなんだけど、うまく答えられない。
そうこうしてるうちにダンサーはにこりと最高の笑みを浮かべて顔を近づけてきた。
「また見に来てね。ダンサーとの、や・く・そ・く。ねっ」
ねぇ! なんで?
なんで、や・く・そ・くのとこだけ小声なの?
ひそひそボイスなの?
身体がぞわってしちゃったじゃん。
俺とダンサーだけの約束ってことなの? こくこく頷くしかないじゃん。
「ダンサー」
そこに割って入ったのは、俺の後ろに並んでいたキューピッドの声だった。
「こんなところにいたんですね。探しましたよ」
冷静な声に現実に引き戻される。
それはダンサーも同じだったらしい。
目をぱちくりさせてから俺の隣を見て、げっという顔をした。
「きゅー姉、なんでこんなところに……」
「私もいるよー」
「私もな!」
キューピッドの後ろに並んでいた二人が主張すると、ダンサーはさらにげげっという顔をした。キューピッドが尋ねた。
「ダンサー、あとでお話できますか?」
「そりゃ、仕事が終わればできるけど。5時にはあがれるから、近くのマイゼで待ってて」
「分かりました。では待ってます」
キューピッドはダンサーとは握手せず席に戻ってしまう。ルドルフとダッシャーも「またあとでね」とにこやかに手だけ振って席に戻ってしまった。
素に戻っているのだろうか。
気まずそうな顔をしているダッシャーと俺はいまだに手を握っていた。
「あ、あの……」
俺に声をかけられて我に返ったらしい。
「あっ、ごめんね、ずっと握ちゃってたね」
ぱっと手を離すと、両手で自分の頬を包み込む。
「また来てね。ダンサー待ってるから」
そのまま上目づかい、からの微笑みに、完全にほだされた俺は、ふらふらと席に戻った。
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