第18話 裏原の不審者
えらい目にあった……。
竹下通りにだしゃはいなかったようだが、竹下通りを抜けるのに必要以上の時間を要したのは、人混みだけのせいじゃない。
クレープをむぐむぐさせ、タピオカミルクティーを啜り、虹色の綿飴を頬張っているルドルフはいたく幸せそうだ。
「ルドルフ、お前、本気でだしゃとやらを探す気あるのか。竹下通りを通りたいって言ったのは、単純に食べ物のいい匂いがしたせいだろ」
「んんんー、ちひゃうよー。ほんろうに、こっちにだひゃがいりゅ……」
「食べながらしゃべるなよ」
うなだれる俺の肩を叩いたのはキューピッドだ。
「三田様、でもこれ、甘くてモチモチでとってもおいしいです」
さっきまで青ざめていたのに、今は目をキラキラさせてタピオカ黒糖ミルクを飲んでいる。
竹下通りを抜けて人混みが多少解消されたせいもあるんだろうけど、まあ、気分転換になったならよかった。
「三田様もどうぞ。飲んでみてください」
キューピッドは飲みかけのタピオカ黒糖ミルクを勧めてきた。
「え? いいの?」
「はい」
満面の笑みで間接キッス! これぞ棚ぼた!
わーいと受け取ってストローに口をつけそうになり、はたと我に返る。
なにやってんだ、俺。いいわけないだろ。
「いやいや、よくない。いらない。いいよ、俺は」
「そうですか? せっかくですから、お気になさらずに」
お気になさらないの?
お気にしてください。
俺みたいなおっさんと間接キスなんていやだーって、拒否してください。
じゃないと俺、調子に乗っちゃうから。いかんいかんいかん。
俺はぶるぶる首を振った。
「いや、いい。俺甘いのあんまり得意じゃないから」
「そーなのー? クレープ、半分サンタにあげようって思ってたのに」
ここぞとばかりにルドルフが言う。
いや、そんなクリームもアイスも溶けて、チョコもフルーツも混ざっちゃってへなってるクレープは本当にいらない。
だから、ルドルフの申し出も丁寧にお断りした。
自販機でホットの缶コーヒーを買って飲むに留まる。二人が食べ終わるのを待ってだしゃ探しを再開させた。
ルドルフの指示に従って明治通りの横断歩道を渡り、さらに路地裏へと進んでいく。裏通りも小洒落た店が並ぶ。路地裏から表参道の方へ向かう途中、ルドルフが反応を示した。
「んんん! 近い、近いよ。だしゃはこの辺りにいるよ!」
その赤い鼻はぴかぴか光っていた。
「ここだ!」
ルドルフが指を指したのはガラス張りの二階建ての建物だった。
「オニオニパンダ?」
店の名前がローマ字で刻印された店は、一見洋服屋か雑貨屋のように見える。
こんなところにだしゃがいるのか?
ここが特別なスニーカーが売ってる店なのか?
「あっ、ダッシャーです」
キューピッドが言い、ルドルフが名前を呼びながら駆けていった。
遠目から見てもその子が浮いているのは明らかだ。外からガラス窓に張り付いて動かない。
不審者じゃん。完全に不審者じゃん。
ルドルフに名前を呼ばれて、不審者は振り返った。
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