第19話 5番目のトナカイ
「へぇ、日本のサンタってものすごく地味なんだな。私は5番目のトナカイ。ダッシャーだ。よろしくな!」
「違います。俺は三田黒須っていう名前なだけの、ただの人間です」
「あん? なんだ、ただの人間なのか。通りでパパとは大違いだと思った。いや、勘違いしてすまなかった」
「いえ……」
店先ではなんだったので、店から少し離れた場所に移動して名乗ると聞き覚えのあるセリフを返された。
みんな同じこと言うよね。地味な俺は地味に傷ついてるんだけど、サンタパパとやらはよっぽど派手ですごい偉大なお方なんですね。けっ。
だしゃこと、ダッシャーはからっと笑い、そこに悪気はないのが分かる。
ダッシャーもまたすこぶるきれいで人目を引く見た目をしていた。
オレンジ色のショートボブヘアが小さな顔に似合っている。釣り目がちな同色の瞳、鼻と口は小さい。見た目は高校生くらいに見える。
この寒いのに黒いジャージの上下のみ。ジャージのショートパンツからすらりと伸びた足は筋肉質で、なるほどランナーという感じでがした。
足元は履きつぶされた白いスニーカーだ。
「で、ダッシャーはこの店のスニーカーを見てたのか」
俺が話の矛先を向けると、ダッシャーは目を輝かせた。
「そう! そうだよ! そうなんだ! 知ってるか? オニオニパンダ!」
「いや、知らない」
「なんでだよっ。日本人のくせに」
「日本人って、関係あるのか?」
「ありありさ。オニオニパンダは日本の老舗ブランドなんだぞ」
「へぇ、そうなのか」
「お腹空いたー」
ぐうううと腹の虫を鳴かせたのはルドルフだ。
その鼻を使ってダッシャーを発見し一気に気が抜けたのだろう。
いや、さっきさんざん食ってたけどな。だが、ダッシャーもダッシャーで腹の虫を鳴かせていた。
「腹減ってるのか」
わたしもわたしもだよーと手をあげてるルドルフは無視して尋ねると、ダッシャーは「まあな」と頷く。
「そうか。そろそろ昼時だもんな。俺達はともかくとして、腹が減ってるなら飯を食べながら話そう」
「ああ、そうしよう」
話しがまとまったところで、さあ移動となったわけだが、あれ?
「キューピッド? どこいった?」
いつの間にかキューピッドの姿が消えていた。
「きゅーちゃんならあっちにいるよ」
ルドルフが指さす方へ視線を向けると、少し離れた建物と建物の間にしゃがみ込んでキューピッドが顔を突っ込んでいた。
「え……。なにやってんの、あの子」
近づいて声をかけると、キューピッドは「きゃっ」と驚いた。
「そんなところでなにしてんの? 昼飯食べに行くけど、お腹空いてる?」
「あっ、は、はい。えと、ネコちゃんがいて……」
「ネコちゃん?」
今のキューピッドの声で驚いたのか。暗い路地裏へと逃げていくネコのしっぽだけがかろうじて見送れた。
「ネコを見てたのか?」
「は、はい。か、かわいかったので、つい」
「ネコが好きなの?」
「……はい」
そんなに恥ずかしがることだろうか。
真っ赤になって俯くキューピッドは取り繕うように言った。
「えと、お腹空きました。お昼、ご一緒いたします」
「お、おう。じゃあ、行こうか」
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