第17話 走るトナカイ
「だしゃは走るのが好きなの」
ルドルフが言う。
俺とルドルフとキューピッドが電車を乗り継ぎ訪れたのは、若者とKAWAIIの街、原宿だ。
日曜日とあって人、人、人だらけで、竹下通りなんて人口密度MAXなんだけど通れるの? 本当に? と、疑いたくなるくらいだ。
「で、なんで原宿なんだ」
走るのが好き=原宿。
という図がさっぱり腑に落ちない。
走りたいなら皇居の外周とか人気あるって聞いたけど、よりにもよってこんな人が多すぎて、走るなんて無理だよぉって怯えちゃうようなとこに来ちゃう理由はなんなんだ。
あ、でも、代々木公園とか?
それなら分かる気もする。
「特別なスニーカーが欲しいって言っていました」
あまりの人混みに若干引いた様子のキューピッドが言う。
「特別なスニーカー? へぇ。それが原宿にあるのか?」
「たぶん……?」
「そうだよ!」
自信なさそうなキューピッドとは違い、きっぱり答えたルドルフは赤く染まった鼻をすんすんさせた。
指をさしたのはよりにもよって人混みMAXの竹下通りだ。
「こっちから、微かにだけど、だしゃの匂いがするの」
「まじか。じゃあ、行くしかないのか」
駅前に立ってるだけでうんざりしたのに、これからあの人の波に突っ込まなきゃいけないなんて。
しかし、気分が乗らないからと引き返すわけにはいかない。
今日はだしゃとやらを、なんならあと二、三人のトナカイをゲットして帰りたいところだ。深呼吸を繰り返し、よし! と気合いを入れる。
「行くぞ!」
「おー!」
「おー? おー」
俺の右隣にやる気満々のルドルフ。
左隣におっかなびっくりという感じで控えめなキューピッド。
二人を引き連れて俺は竹下通りへ続く横断歩道を渡った。
ああ、だめ。
竹下通りに入ってすぐにワクドナルドに非難したいくらいに、俺の心は折れた。それでも、波に飛び込んだからには流れに逆らわず進むしかない。
「ふわぁ、およよ、ふえぇぇ」
小さなルドルフは前が見えないらしく困惑している。
若者の熱気がすごい。さすがはKWAIIの街。
実際かわいいのかよく分からんが、カラフルな店が建ち並び、個性的な格好をした人達があちこちに見受けられる。
が、こりゃ人間観察してる場合じゃない。このままじゃルドルフは確実にはぐれる。
「おい、ルドルフ。こっち来い」
俺はたまらずルドルフを抱き上げた。
「ふえええ? あっ、すごい、よく見えるよ!」
俺はルドルフを肩車してやった。思ってたよりも軽すぎてびっくりした。
「ルドルフ頼む。早くだしゃとやらを見つけてくれ」
「おっけーい! だしゃを探すよ。このまま進めー!」
「あいあいあさー」
人混みから頭一つ抜けたからか、ルドルフは意気揚々と前方を指さす。俺はその指示に従って突き進んだ。
「あ、あの、三田様」
後ろから腕を引かれて見れば、キューピッドが俺の袖をつかんで涙ぐんでいる。
「キューピッド? どうした。大丈夫か?」
「ええと、はい。大丈夫です。はい。大丈夫ですよ」
全然大丈夫そうに見えないな。もしかしたら人に酔ったのかもしれない。白い肌が青ざめて見えた。
「あー、俺の腕につかまって。そしたら下向いてても歩けるだろ。竹下通りを抜けたら、多少はこの人混みも解消されるはずだから」
「はい。すみません」
そう言いながらキューピッドは俺の腕につかまるどころか、その腕を絡めてきた。
「よろしくお願いします」
「う、うん。じゃ、行くか」
俺は努めて冷静を装って歩き出す。
胸が。ふくよかな胸が当たってるなんてことは考えないことにした。
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