第6話 俺の父性が目覚める時
「一つ訂正しておくが、俺は三田黒須って名前なだけで、サンタクロースじゃないからな。ただの平凡な人間だ」
「えええええええ―――――――!?」
「そこ驚くところなのか。気づかないのか」
「まあたしかに、サンタパパと比べたらものすごくふつうだし、お家も狭いし、なんか違うのかなとも思ったけど、でも、異国のサンタさんだからそうなのかなって思ってた。でも、本当にサンタクロースじゃないの?」
「なんかよく分からんし、もしかしたら失礼なこと言われてるのかもしれないが、俺はサンタクロースじゃない。見た目地味なのに、名前だけがやたらキラキラしてるだけだ。こんちくしょう」
この名前のせいで俺がどれほどいやな目にあってきたことか。
ああ、思い出したくもない。
「そうだったんだ。じゃあ、ただの人間だったのに、私を助けてくれたんだね」
ただの人間で悪かったな。
「ありがとう」
にっこりとルドルフは笑った。
天使が存在してたら、こんな笑顔なんだろうなってくらい、純真な笑みだ。
いや、サンタがいてトナカイが実在するんだったら、天使だっているのかもしれないが。
「どういたしまして。分かってくれてよかったよ。で、とにかくなんだ、手始めにきゅーちゃんを探せばいいのか」
「うん。うん! サンタさん探してくれるの!?」
そのきゅーちゃんという姉を見つけられれば、ルドルフを引き渡して俺はお役御免になるだろう。
「ああ、探してやる。けど、とりあえず仕事があるから詳しくはまた帰ってきてからだな。っと、やべっ、もうこんな時間かよ」
時計の針はいつもならすでに家を出る時間に差しかかっていた。
俺は押し入れの中に積んであった下着を引っ張り出し、急いで風呂場に向かいながら言った。
「あ、ルドルフ、ちなみに、俺にさんなんてつけなくていいぞ。なんか、子供にさん付けで呼ばれるのも変な感じだから」
「わーい! ありがとう! サンター!」
「うわっ」
ルドルフは俺に突進してきてタックルをかました。
さすがはトナカイだ。小さい身体だというのにそこそこ威力があって、後ろに倒れそうになった。
「いきなりなにすんだ」
そう言いかけて、ぎゅうっと抱きしめられていることに気づく。
なんだよ。タックルじゃなくて、抱きついてきただけか。
「えへへー」
俺に抱きついたルドルフは無邪気に笑っている。
なんだろう、これ。
無理矢理引っぺがすことは簡単だが、できない力が存在していた。
これがもしかして、父性ってやつなんだろうか?
なんかよく分からんが、心がふわっとあったかくなった。小さな頭をなでなでしてたら、時計の針が進んでいた。
「って、こんなことしてる場合じゃない!」
恐い。父性恐い。小さな子供恐い。
仕事に行かなきゃ、完全に遅刻だ。
俺は光の速さで最低限出社準備を整えると玄関のドアを開けた。
「残り物は好きに食べていいから。とりま、行ってきます」
「はーい! いってらっしゃーい!」
ぴょこぴょこ飛び跳ねて見送るルドルフを家に残し会社に急いだ。
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