第5話 9番目の末っ子
え? 待って。待って。12月24日から25日に?
プレゼントを世界中に配るの?
なにその世界一有名なお話。
「だって、サンタクロースの正体は父親と母親だろ」
「そんなことないよ! サンタパパはサンタパパだよ。毎年世界中から届く子供達の手紙を読んで、プレゼントを選んで、配ってるんだよ。サンタパパのソリが無事に移動できるように、ソリを引っ張ってるのが私達の役目なんだよ」
「えー……」
「信じてないの!?」
ルドルフは「ガーン」と言いそうな顔をした。
俺は腕を組むと、どうしたもんかと考える。
あまりにも突拍子のない話だ。
「サンタなんて、一度も見たことないけど」
「サンタパパはサンタパパを信じてる子供にしか見えないの」
「ますます胡散臭せぇ」
ルドルフは顔を引きつらせた。
その身体が光ったかと思えば、小さくしぼんでいく。再び元の(?)子供の姿に戻ったルドルフは、その青い瞳いっぱいに涙をためていた。
「ひどい。日本のサンタさん、いじわるだ」
「うっ」
泣くなんて反則だ。子供と女の涙は本当にずるい。
子供で女のルドルフは、だから本当にずるかった。
ぷくぷくの頬を真っ赤にして、大きな瞳をうるうるさせて、なんなんだよ。
「わ、悪かった。いや、その、困ったな」
実際のところ、誰かにドッキリを仕掛けられて、モニタリングされてる感が半端ないのだが、こんなしがないおっさんにそんなもん仕掛けてどこに需要があるのかも分からないし、たぶんない。
それに、なにかの罠だったとしても、ルドルフは俺の目の前でトナカイになり、再び人間になった。視覚効果をうまく利用したとしても、こんな魔法みたいな技術を俺に見せつけて得する人間も、たぶんいない。
だから。
「まあ、信じるしか、ないのか」
「信じてくれるの?」
「う、ん」
「それじゃあ、姉様達も探してくれるんだね」
「は?」
「昨日お願いしたでしょ」
「昨日……?」
記憶を掘り返してみる。
そういえば、ルドルフはそんなことを言っていたような気がする。
「姉が、いるのか? お前が9番目で末っ子ってことは、上に8人いるのか」
「うん。そー。きゅーちゃんに、だしゃに、だんちゃん、ぷーら、う゛ぃくちゃんに、こめちゃん、どなねー、ぶりねー」
「待て待て待て、そんな一気に名前言われても覚えられないから」
「ふぇ? あ、そーか。でもまずは、きゅーちゃんを見つけたいな。きゅーちゃん、ずっと一緒にいたのに、はぐれちゃったから」
「その、きゅーちゃんってのも、やっぱりトナカイなのか」
「そうだよ」
「つまり、お前の言う姉様達ってのは、みんなトナカイであれか。サンタが乗るソリを引っ張ってるのか」
「そうそう! 日本のサンタさんにもトナカイさん達いるんでしょ? それと同じだよ」
「そんなもんいないぞ」
俺が言うとルドルフは目をぱちくりさせた。首を傾げ「うむむむ?」と難しい顔をして固まった。
やっぱりこの子勘違いしてる。
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