第2話:思案・マリアンヌ視点

 今なら分かります、あれはサロメの陰謀だったのですね。

 あんなにタイミングよく、マクシミリアン王太子殿下が私を訪ねてくるわけがありませんから、何か工作して殿下を呼び寄せたのでしょう。

 いえ、そもそもこの醜く呪われた顔もサロメの仕業です。

 

「お嬢様、マクシミリアン王太子殿下からお見舞いが届いております」


 これもサロメの、いえ妹のサロメだけではなく、母カトリーヌの嫌がらせです。

 ハーフエルフのジェラールとヴァネッサがどれほど秘術を尽くしても、あらゆる文献を調べても、国中の魔術師呪術師に診せても解呪できない呪いです。

 解呪できない以上、マクシミリアン王太子殿下との婚約は無効です。

 マクシミリアン王太子殿下のお見舞いも虚しいだけです。

 私を絶望させて苦しめるのがサロメとカトリーヌの目的なのです。


「お嬢様、マクシミリアン王太子殿下がこんなに美しい花を届けてくださいました。

 さっそく部屋に飾らせていただきますね」


 ヴァネッサが暗くなりがちな部屋の雰囲気をよくしようと、無理して明るく振舞ってくれていますが、そんなに気を使ってくれなくても大丈夫です。

 私は一度死んで生まれ変わったのですから。

 マクシミリアン王太子殿下に醜く呪われた顔を見られたショックで、私の心臓は一度完全に止まってしまったのです。


 あの時の痛みは今思い出しても胸が苦しくなる激烈な痛みを思い出させます。

 冗談ではなく死ぬかと思うくらい痛かったです。

 ですが、その痛みのお陰で、前世の記憶を思い出しました。

 記憶だけでなくガサツで図太かった性格まで戻ってしまいました。

 公爵令嬢として蝶よ花よと育てられたから、あんな繊細な性格に育ったのでしょうが、今思い出したら笑ってしまいますね。


「お嬢様、どこが痛い所でもあるのでしょうか」


「ああ、大丈夫よヴァネッサ、ちょっと考え事をしていただけだから」


 そう、考え事をしていただけです。

 どうやってサロメとカトリーヌに復讐するかを考えていただけです。

 問題はまだ自分に何ができるか全く分からない事です。

 こういう転生物の常道では、莫大な魔力や天下無双のスキルが与えられているのが普通なのですが、全く検証できていません。


 理由は私に呪いをかけたであろうサロメとカトリーヌの力が怖い事です。

 ハーフエルフのジェラールとヴァネッサだけでなく、王国中の魔術師呪術師が解呪できないような呪術を使えるのです。

 私が魔力や魔術の検証をすれば察して殺そうとするでしょう。

 今は惨めな私を見て愉悦に浸っていますから、私を殺そうとは思わないでしょうが、私が報復の準備をしていると知れば直ぐに殺してしまう事でしょう。

 どうやってサロメとカトリーヌの目の届かない所に行くかですが……

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