第3話:婚約破棄追放・マリアンヌ視点

「マリアンヌ、気をしっかり持って聞いてください。

 今からとても哀しく辛い話をしなければいけません。

 覚悟して聞いてください、いいですね」


 カトリーヌが表面だけ娘の不幸に心を痛める母を演じています。

 ですが本心は、私の不幸が楽しくて仕方がないのです。

 私にはカトリーヌの邪悪な本性が手に取るように分かります。


「嘘を言って後で真実を知った貴女が傷つかないように、本当の事を伝えます」


 嘘ですね、隠せばいい事を話して私が傷つくのを見て愉しむつもりです。


「表向きは我がベイリー公爵家から申し出たことになりますが、実際には王家から強く命じられて仕方なくそうしただけなのですよ。

 私は命懸けで反対したのですが、どうにもなりませんでした」


 これも嘘ですね、王家が言うように仕向けたのでしょ、カトリーヌ。


「公爵家から、いえ、マリアンヌからマクシミリアン王太子殿下との婚約を辞退するように強く命令されたのです。

 本当は婚約を解消、いえ、破棄されたのですよマリアンヌ。

 何と辛く哀しく腹立たし事でしょう」


 あれ、私を煽って何かさせようとしているのでしょうか。

 まさか私にマクシミリアン王太子殿下を襲わせて楽しむ気ですか。

 私が殿下を襲うとなると、ジェラールとヴァランティーヌを頼ることになりますから、人間とエルフを争わせる気ですね、何と邪悪な事を考えるのですか。


「しかも婚約を破棄しただけではないのですよ。

 マリアンヌが受けた呪いを少しでも軽くするために、ガードン辺境伯家が管理している古代遺跡を修理して住んではどうかと言ってきたのです。

 マリアンヌを案じるフリをして実質王都から追放するというのです。

 追放ですよ追放、何と無慈悲な行いでしょう。

 静養なら他にいくらでも風光明媚な場所があるというのに。

 恐ろしい魔境の中にある古代神殿を指定してきたのですよ。

 これだけは何としても私が拒否してあげますからね」


 あれ、これは、恩着せがましい言い方をしていますが、嫌がっていますね。

 カトリーヌは明らかに私を古代神殿に行かせたくないようですね。

 私が苦しむのを見て愉しんでいるカトリーヌが嫌う場所なら何かありますね。

 魔術や呪術を古代神殿が防いでくれるのでしょうか。

 それとも、魔境が魔術や呪術を防いでくれるのでしょうか。

 素直に受けると疑われてしまうかもしれませんから、どう返事すべきでしょう。


「いえ、これ以上母上にご負担をかける訳にはいきません。

 ベイリー公爵家の印象を悪くするわけにもいきません。

 私が婚約を辞退すれば、恐らくサロメが新しい婚約者に選ばれるはずです。

 ここで問題を起こしてしまったら、サロメが婚約者に選ばれないかもしれません。

 ここは何も抗議せずぬ受け入れるべきだと思います。母上」

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