公爵令嬢は婚約者の王太子に横恋慕した自称聖女の妹に呪いをかけられる

克全

第1話:呪い・マリアンヌ視点

 熱い、痛い、かゆい、顔を掻きむしりたくなるほどかゆいです。

 血が噴き出るほど掻かないと気が狂ってしまいます。


「おやめください、マリアンヌお嬢様。

 そのような事をされたら顔が傷だらけになってしまいます」


「でもヴァネッサ、かゆいのよ、かゆくて気が狂いそうなの。

 何とかして、お願いヴァネッサ」


「キャアアアアアアアア、お嬢様、お嬢様、お嬢様。

 その顔はどうされたのですか!」


「顔がどうかしたの、これほどかゆいから腫れているかもしれないけれど」


 私は激烈なかゆみを我慢して部屋に置いてある高価な銀鏡をのぞいてみました。


「キャアアアアアアアア」


 私はあまりの衝撃に自分で叫んでいる事にすら気がつきませんでした。

 銀鏡に映った私の顔はそれほど衝撃的でした。

 皮がブヨブヨと水膨れしてしまっています。

 どす黒い色調の赤色青色黄色に、所々変色してしまっています。

 しかも所々にニキビのような所があり、膿が噴き出しています。

 今ようやく気がつくことができましたが、鼻を刺すような悪臭まで発しています。


「助けて、助けてヴァネッサ。

 あああああ、私の顔が、私の顔が、ヴァネッサ、助けて、お願い」


「これは、何かの病気か、もしかしたら呪いかもしれません。

 直ぐに父を呼んできますから、マリアンヌお嬢様はここでお待ちください」


「いや、嫌よヴァネッサ。

 私を一人にしないでヴァネッサ、お願いだから側にいてヴァネッサ」


「では別の侍女を呼びますから」


「嫌、嫌よヴァネッサ、こんな顔を他の誰にも見せたくないわ。

 お願いだからヴァネッサが側にいて、どこに行ってもダメよ」


「分かりました、分かりましたから。

 大丈夫ですよ、そんなにしがみつかれなくても私はどこにも行きません。

 ただ他の侍女に父を呼んできてもらいます。

 長年生きてきたハーフエルフの父ならこの状態をなんとかできるかもしれません。

 他の侍女に声をかけますから、ドアの側まで行かせてください」


「ドアの側までよ、どこにも行ってはダメよ」


「ですがお嬢様、離してくださらなければ動けませんわ」


「一緒よ、私もドアの側まで行くわ。

 でもドアを開けてはダメよ、他の侍女にこの顔を見せるのは絶対に嫌よ」


「分かっておりますわ、マリアンヌお嬢様。

 誰かいないの、誰かいたらすぐに来てちょうだい」


「何かご用かしら、ヴァネッサ。

 侍女が誰もいないから私が話を聞いて差し上げてもよくてよ。

 丁度マクシミリアン王太子殿下がマリアンヌお姉様に会いたいと来られていたから、ご案内してきたところよ」


 婚約者のマクシミリアン王太子殿下に、こんなにも醜い顔を見られてしまった。

 化物を見たような驚きと嫌悪感を浮かべたマクシミリアン王太子殿下の表情。

 嫌われてしまった、マクシミリアン王太子殿下に嫌われてしまった。

 そう思ったとたん、心臓に激烈な痛みを感じてました。

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