第210話 他の狩猟者

翌日はいつもと変わらず、草原に向かい狩りをすることとなった。

パウに先に工房に行くかと尋ねたところ、トモエとオユキの服が出来上がれば、一日休みを取ると、そんな話をしていたこともあり、その日に改めて彼は工房に行くと、そういうことで合った。


「私、こっちのほうが好きかな、やっぱり。」


馬車から降りると、セシリアが体を伸ばしながらそのようなことを言う。


「セリーは木精の血が入ってるらしいから、その影響もあるかもなぁ。」

「うん、たぶんそれもああるのかな。あんまり日の光が当たらなかったり、植物がない場所は、居るだけで疲れるかも。」

「へー。」

「それはそれで大変ね。」

「別に、普通にしていれば、そんなに。穴の中で暮らすような人の方が少ないだろうし。」

「そりゃそうだ。」


少年たちが、そうして話しているのを聞きながらトモエが周囲を見れば、日毎にこちら側にも人が増えている、そんな様子が目に入る。

初日は護衛以外は誰もいなかったが、今となっては草原のあちこちで魔物と戦う人々の姿が目に入る。

そして、そんな様子を眺めると、ため息が出る。


「危なっかしいですね。」


トモエのっその呟きに、ルイスとアイリスもそれぞれに頷く。

ただ、口から出るのはどういうの言葉ではない。


「駆け出しの狩猟者なんて、あんなもんだぞ。」

「そうね。正直他の護衛が散ってなければ、今日だけで10人くらいは死者が出るんじゃないかしら。」


始まりの町では、完全に新人である、そんな狩猟者はトモエたちくらいしかおらず、溢れの時に見た他の面々は彼らよりもかなり強い面々しかおらず、安心感はあったのだが、今、目の前では体力も、体の動かし方も、始めてあった時の少年達よりは優れている、それ位しか見るべき点のない狩猟者たちが魔物を追いかけまわしている。

誰も彼もが、魔物の攻撃を受けようが気にするそぶりも見せず、盾や鎧、時には素肌で受け、可能であれば武器や空いた手で払う、そんな有様だ。

怪我人は多くみられるのだが、それの手当てをする素振りも見せず、戦うというよりも、ただ暴れるといった有様だ。


「これが、一般的ですか。こちら側は、西より強いのでしたか。」

「ああ。ただ向こうはもう、人が多すぎて、狩場がな。」

「それで、こちらでやれそうだと、そんなことを考えた人間が、こっちに流れて来てるってわけ。」

「全く、狩猟者はかなり金銭的に余裕がある職だと思っていましたが、この様子であれば、そうではないようですね。」

「おう。自分たちがおかしいってことを理解してくれて何よりだ。ちょっとした裏話だがな、公爵様から駆け出しの狩猟者の護衛を頼まれた時、そりゃもう嫌がる奴が多くてな。」

「まぁ、今も人気があるわけではないけれど。」


ルイスの言葉に、アイリスが苦笑いで応える。


「そうなのですか、それはご迷惑を。」

「迷惑って言うか、ま、あいつらの我儘だ。護衛が退屈なのはいい事だからな。」

「少し面倒なのは、鉱山くらいかしら。狭いし、はっきりそうするわけにもいかないから。」

「でも、皆さん先に行かれて、入り口も固めて下さっていますし、距離を置いてついて来ていただいてますよね。」

「ま、他に方法もないしな。どうする、こっちから声かけてクエヴァチエンピエスを捌かせるか。」

「いえ、それでいないと、そう思ってしまうのも危ないですから。いると分かった以上はもう中層へは行きません。」

「優等生な判断で何よりだ。にしても、そこまでダメか。人それぞれとはいえ、お前なら斬って消えるなら問題ない、くらいは言いそうなもんと思ってたけどな。」


そういって笑うルイスに、トモエもどうにか笑いながら返す。


「昔から、足の多い虫だけは駄目でして。」

「あの見た目が好き、なんて方が少数派でしょう。こっちは仕事の中なら選べないけれど、そっちは違うしね。」

「この仕事を選んで良かった点ですね。それにしても。」


そういってトモエは改めて周囲を見回すが、なかなかどうして、そこに広がる光景は褒められたものではない。

少なくとも、前の世界で見れば戦闘不能、そう見えるものたちが、ようやく体を引きずるように結界迄引き返して、雑な治療を行っている。


「魔術や奇跡で回復できるから、そういう事なのでしょうね。」

「まぁ、な。かなり珍しいぞ、新人がそうやって準備万端整えてからって言うのは。」

「私もこちらに来て、薬が結構高くて驚きましたね。」

「正直、素材の入手難易度で変わるからな。始まりの町は、それこそ森に少し入ったところでとれるし、そこにいるのは歩きキノコに、グレイハウンドだけだからな。」

「成程。こちらだと森迄向かうのも、なかなか難儀しますからね。栽培などは。」

「してるが、それにしたってそんな大量にはな。」


そして、応急処置が終わった者から町に向かって歩いていく。

相応の怪我もあり、その歩みは遅い。町に戻るころには昼近くなっているだろう。

そう言う部分も、効率を悪くさせるのだろうと、トモエは納得する。


「さて、少し歩いて、そこを起点にしましょうか。あまり他の狩猟者の方と近いと魔物の数も足りないでしょうし。」

「そうだな。ま、あっちのガキどもも、そろそろシエルヴォなら一人でもどうにかなりそうだしな。」

「初見の相手だと、まだまだですよ。緊張が勝ちますから。」

「結構そのあたり、気後れするんだな。ま、自分より大きい魔物が突っ込んでくるのに慣れるのは、経験か。」

「そうですね。流石にあの子たちも狩猟者になってようやく2か月を超える、それくらいですから。」


そうしてトモエが先頭に立って、普段よりも少し先、狩猟者が少なくなっている、そんな場所に陣取り、いつも通りに少年たちに魔物の相手をさせながら自身も周囲の魔物を間引く。


「あの子たちも、安定感が増してきましたね。」


その周り、オユキも片手剣を軽く振りながら、トモエにそう声をかける。


「ええ。始まりの町では、町のまわりで魔物と戦う、その限りであれば目を離しても問題なさそうですね。」

「そうでしょうね。戻れば、あちらで育成すると、そんな話も進んでいるでしょうし。」

「切欠を作っておきながら、放り出す形になったのは、申し訳なかったですね。」

「そのあたりは、ミズキリとトラノスケさんがよくしてくれているでしょうから。」


そうしてほほ笑むオユキにトモエも頷く。

少年達だけでも、グレイウルフ数匹であれば、すでに問題なく、一人が戦い残りの三人が警戒、一人は少し休憩、そうして危なげなく対応している。

構えの種類を増やしたこと、武器の質が上がったこともあり、回避するだけでなく、それに合わせて攻撃を加え、削ることもあれば、それだけで仕留めることもある。

新たに加わった6人の子供たちは、始まりの町までついてくる、それがすでに決まっているのだが、こちらの子供たちも、既にグレイウルフ1匹であれば、危なげなく対応できるようになっている。


「おや。」


そうして、少年たちをのんびりと見守っていれば、少々周囲の狩猟者の動きに変化が見え始める。

相応に距離を、獲物が相応に確保できるようにと距離を開けていたというのに、それを詰め、護衛が適当に間引いた後の魔物を狙い始める。


「なかなか、逞しい事ですね。」

「周囲を観察する技量はあるようで、何よりです。」


オユキとトモエがのんびりとそんなことを話していると、アイリスが首をかしげる。


「良いのかしら。散らすわよ。お望みなら。」

「そもそも、私たちが雇っているわけではありませんからね。」

「そういえば、そうね。」

「ただ、少々剣呑な気配の方がいますので。」

「ま、気が付くわよね。」


そうして、オユキとトモエ、アイリスは一組の狩猟者に目を向ける。

ここしばらく、傭兵ギルドで訓練をしている時に、丸太に打ち込みを行う彼らを見て、嘲笑っていた手合い。

既に傷をそれなりに追っていることもあり、実力は見た目通り、そんな一団が、オユキ達を何やらよくない視線で見ている。

見た目だけであれば、少年達より力の強そうなものではあるが、まぁ、実際は推して知るべし、そんなところだろう。


「どうしましょうか。」

「声をかけて来るなら、応えましょうか。碌な事ではないでしょうが。」

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