第209話 2人の予定

その後は、オユキとトモエから取り置いてある鉄人形、その販売額から差し引く形で始まりの町までの旅路、オユキ達の荷物の移送も含めた物を依頼し、その後は何事もなくその場では別れることになった。

そして、部屋に戻ればトモエとオユキの二人。

ここしばらくは、お互いにこの時間でいろいろと話をしてはいたが、それはあくまでも他愛ない事で、翌日も早く、体をしっかり動かすからと、どうしても二人で眠りに落ちるまで、その短い間に限ったものであった。


「今日は、少しいろいろと面倒なことも話しましょうか。」

「そうですね。私も違和感が大きくなっていますから。」


そうして二人で苦笑いをしながら、頷きあう。


「ひとまず、私達の目的地ですね、こちらは月と安息の神、その神殿ではなく、水と癒しの神の物に変えましょうか。」

「一番近いのは、月と安息の神の物だったのでは。」

「初めて見に行く道中、そこでゾンビなどを目撃したくはないですから。

 既に面倒は抱えましたが、最初の旅くらいは楽しいものにしたいのです。」

「それは、ありがとうございます。その、ゾンビはそれほどに。」

「はい、見た目もさることながら匂いも。」


オユキがそう言えば、トモエが天を仰ぐ。


「そのあたり、ファンタジーで済ませてはくれませんか。」

「はい。ゲームの頃から、それはもうおびただしい数の改善要望が送られましたが、一蹴されました。

 何が楽しいのか、その件については毎月何件の要望があったか、それを公開したうえで一切行う気はないとそんな文章を公開していましたから。」

「意味があると、そういう事なのでしょうね。対策ができるまでは、確かに遠慮したいですが。

 分かりました、まずはそちらへ。場所は。」

「王都からが近いですね。なので、次はまず王都へ。」

「分かりました。では、予定はそれに合わせるとして、あの子たちには暫く一人でもできる訓練を教えておかなければいけませんね。」

「ええ、流石に王都までは、かなり遠いですからね。具体的にどの程度かかるか、分かりませんが。ゲームの時の地理関係と同じであれば、ここまでの4,5倍ほどでしょうか。」


そう言うとトモエが少し考えてから口にする。


「平らな大地、その割には、下手をすれば私達の世界よりも広いですよね、こちら。

 あと、河が王都までつながっていると、そのような話があったかと思いますが。」

「地球の表面積のよりもはるかに広大と、そのような話を聞いた覚えがありますが。さて、実際にどの程度か迄は覚えていませんね。それと、内陸の国ですから、船はあるか分かりません。聞いてみるのは構いませんが、相応の物を作らなければ、魔物がいますから、それも見えない水中から襲われ、穴が空けば沈むと、そう考えると。」

「現実的ではありませんね。それにしても、内陸ですか。」

「はい、海もありますよ。大陸は、見つかっていたものは3つです。」

「やはり過去の伝承のように海水は。」

「はい、そのまま落ちていきます。だからこそ、この町の教会のように、当たり前のように水が生まれる、そう言った場所があるのでしょう。」

「納得のいく理屈ですね。」


話の流れが、世界の構造、それに及んだからか、これまで数度簡単に話した事柄に話題が移る。


「それにしても、この世界の歪さと言いますか、それに類するものが気になりますね。」


オユキはそれに頷きながら、これまで口にしなかったことをトモエに話す。

似たような仮説、5分前仮説というものは前の世界にもあったが、トモエは聞いた事が有るだろうか、そう考えながら。


「この世界の成立から、千年でしたか。そんな事を聞いた覚えがありますが、問題はその成り立ちです。」

「それは、どういう。」

「千年前に今の形、その全てが一度に発生した可能性です。恐らくそこからが歪さの始まりでしょう。」


そう、それが間違いなく、大きな影響をこの世界に与えたのだろう。


「技術、いえ人類史といってもいいかもしれません。記録が残っている、それを起点にすれば私たちの世界は、5000年を超える程度でしたか。文明が発生したといわれているのが、そのころだったように思います。しかしその前に人類という生き物としての歴史があり、工夫があり、つまりは、人が集まれる、それだけの下地を作ったとそういう事ですね。」

「ああ、分かりました。こちらには、それがないと。工夫も何もなく出来上がっている物、道具の使い方がいきなりすべてそろって、そこで暮らす人々も、設計された状態で、いきなりと、そういう事ですか。」

「はい。その際に、彼らの中に作り物、私達も目にしたわけではありませんから、大差ないかもしれませんが、少なくともそれだけの積み重ねがあったと、工夫があった結果の今と、そう判断できるだけの教育は受けます。」

「成程。そう考えれば、この歪も少しは納得できますね。神によってそう作られたのだからと、ただ従う。

 工夫の歴史が浅いから、それに価値を見出せない。そのようなところですが。」

「それも理由の一つになるかと。後、正直気になる事が一つ。」

「時折、話している時に考えていたのはそれが。」

「はい。あまりゲームと重ねすぎるのも、こちらに生きている方に失礼かとは思いましたが、こればかりは。」


そんな前置きを置いて、オユキはトモエと肩を並べながら話す。


「あるのですよ、この国、その隣に烙印を持つ物たちが集まる、国が。」

「しかし、加護も失くしては。」


オユキは、トモエの言葉に頷く。

ここ、領都で事件に巻き込まれ、そこで烙印を押された、そんなものたちが纏まって出て行かなければ、気にもしなかったが、そうもいかない。


「ええ、ですからそれが引っかかっています。それとアナさんが対峙した相手の思想。

 他に捕まったものが否定しなかった以上、賛同者は、それこそ烙印を押されたもの、その数くらいはいるのではないかと。

 そうなると、疑わずにはいられません。」

「この世界が生まれたように、ですか。」

「はい。今回の件で、方々から集まることになれば、それこそ人数が一度に増えることになるのでしょう。」

「力を振るうに十分な量、それが集まったかもしれませんね。」

「今後は人にも気を付けなければいけないのでしょうね。前の世界と変わらないと、そういえばそうなのですが。」


オユキはただため息をつく。


「思い入れがある分、やはりお辛いでしょうね。」

「ゲームの時から、所謂レッドネーム、そのような方はいたので、諦めもつきますが。ままならないものです。」

「せめてあの子たちは、まっすぐに成長してほしいですね。」

「ええ。それに戻れば、そろそろ他の方々も新人の教育に動き出しているでしょうからね。

 それこそ、これまでと変わりません。手の届くところで、叶う範囲でより良くと、そう望むだけです。

 押し付けない程度に。」

「それ以外、出来る事もありませんからね。それにしても、私にも少し舞台裏が見えてきました。」


そう言うと、トモエもため息をつく。


「世界ができてから千年程、それにしては発展が早いと、以前に伺っていたゲームの延長とそう考えれば遅すぎると、そんなことを考えていましたが、つまり、それが影響しているのでしょうね。」

「他の要因もあるでしょうが、神々の影響が、元々この世界のためにとそうされている神々の影響が弱くなる、それに合わせて、人々を守るために、それを排除したい。その結果が今回という事でしょうね。」

「これまでは、成長を見守る、そのために放っておかれたのでしょう。」

「そうであれば、また神々がその力を取り戻すまで、その間に勢力を拡大しようと必死になるのでしょうね。」

「ええ、非常に困ったことに。そしてこの国の隣にそんな国がある、面倒な事です。」

「こちらの人は気が付いていると。」

「二つ目の箱、その中に入っていたのではないかなと。公爵様にお会いした時、喜んでいたでしょう、シグルド君やアナさんの事を。」

「領民思いと、確かにそれ以上ですね。個人に対して感情を向けているわけですから。」

「さて、始まりの町、私達が足元を固められるのは、まずはそこからでしょう。

 私たちの楽しみ、それも考えながら、上手くやっていきましょうか。」

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