第208話 断固拒否

そして、納品後はいつものように傭兵ギルドで訓練を行う。

少々傭兵ギルドの訓練所でこちらを伺う視線に遠慮のない物が混ざり、形だけを真似るものがいる中、聞かれれば答える、トモエはそのスタンスを貫き、そんなものたちを放置していた。

生兵法は怪我の元、そんな事を思いもするが真似るものを見る限り、それ以前の問題だったというのもあるが。

アイリスにしても、指をを付けた状態での打ち込みが様になってき始め、今では軽快な音を鳴らしながら、打ち込みを続けている。

少年達も、素振りが終われば、せっせと打ち込みを続け、トモエもそれを横目に打ち込み、手を入れなければ、そう思うときには姿勢を直し、言葉をかけと、いつもの訓練をこなす。

オユキはある程度打ち込みを行えば、足の動かし方、体と剣の振り方などを確認する。

柔軟で少しは鍛えているが、それ以上に動きが大きく、自分から動いて相手を崩す、それを達成するにはまずは身体制御、それなのだからと。


「これ、持って帰れるかな。」

「えー、荷物になるだけじゃない。」

「いや、でもせっかくここまで削ったしさ。」

「それは、そうかもだけど。また戻ってから削ればいいんじゃない。」


そんなことを少年たちが話すのを聞いて、トモエは少し考えるが、首を振る。


「他の荷物も多いですから、流石に丸太は無理でしょう。他の物を減らしてまでと、そうするほどであれば。」

「いや、流石にお土産とか水とか食料、それ削って丸太は積めないな、うん。」

「始まりの町であれば、森も近いですから、また取ってきましょう。」

「そうだな。帰るまでには、折れそうにないし。」

「無理に力を入れれば出来るかもしれませんが、許しませんよ。」

「うん。分かってる。」


そんな会話をしながら訓練を終えて、宿に戻り、少し休んでさて夕食となる。


「ほんとに来たな。」

「ええ、勿論来ますとも。」


食卓にはワイングラスを傾けるアマリーアもついている。


「半分は取っておいて貰っていますから。」

「何よりだわ。」

「なぁ、昼間から不思議だったけど、別に狩猟ギルドに売っても、そこから商人ギルドが買えばいいんじゃねぇか。そりゃ、間に入る手が増えれば、少し料金上がるかもしんないけど、大した量でもないし。」

「その少しを惜しむのが言い商人、と言いたいところですが、そうですね予測ですが、裏側は別ですよ。」


今日は珍しくシグルドもアマリーアに頼むことがあるからと、トモエとオユキの間に座っている。

そんな彼にオユキは、サラダをつつきながら説明をする。


「さて、ギルドが国の運営する機関というのは、覚えていますか。」

「ああ、登録の時に聞いた。で、溢れとか色々とやらなきゃいけない事を一緒に聞いたな。」

「そうですね。では、魔物を狩る、つまり戦える人間です。国の管理として、どこに所属するでしょうか。」

「そりゃ、国の事だから国王様じゃないのか。」

「ええ。一番大きく見れば、そうなります。ですが国王様一人では、国中全ては管理しきれません。

 では、国王様の手伝いをするとしたら、どこが、誰がするでしょう。」


そののんびりとしたやり取りに、アマリーアも微笑みながら見守っている。


「うーん、なら戦うわけだから、騎士様か。」

「はい。私もそう考えています。では鉄人形、その素材、騎士様は何に使いたいでしょうか。」

「そりゃいい鉄なら、武器だよな。」

「ええ、では、鉄の使い道はそれだけですか。」

「いや、家とか農具とか、他の道具にも、ってそういう事か。狩猟者ギルドに売ると、騎士団が優先されるのか。」

「恐らく、ではありますが。狩猟者ギルドの管理が騎士団であれば、武器に使える鉄、それは軍事物資です。

 まずは、自分たちで十分な量を、そう望むものかと。」

「まぁ、そりゃなぁ。俺らだって、売るよりも先に、武器に使いたいって思うし。ってことはそっちのおばさんは違うのか。」


そういってシグルドがアマリーアを見れば、彼女は微笑んで頷く。


「よくできました。正しくは名称が違いますが、その通りです。狩猟者ギルドに流れてしまうと軍事物資、細かい内訳は省きますよ、これは騎士団が全て買い上げます。販売額もかなり下がります。騎士団も、予算に限りはありますからね。」

「へー。」

「で、うち、商業ギルドですね、こちらに回ってきた場合は、高値で買い取って高値で売ります。

 それこそ武器に加工して騎士団に、建材、魔道具、研究材料、装飾品、本当に使い道はいくらでもあります。

 それを欲しいという方が多ければ、素材のまま競売、そうでなければ加工したうえで。」

「おー。大変そうだな。」

「ええ、大変なんですよ。それで、その。量、増えませんか。石材もそれなりに確保していただいてますが、トロフィーの鉄は、貴重なんですよ。」


そう、アマリーアが言えば、トモエが笑顔ですぐに断る。


「申し訳ありませんが、二度と鉱山の中層へは行きません。」

「そこを何とか。買い取り額も、目一杯査定しますよ。」

「残念ながら、もう決めた事ですから。」


そうトモエが、珍しいほどに強硬な態度で断る。

まだこうして話す機会はないが、取り付く島もない様子にアマリーアが不思議そうな顔をすれば、ルイスが笑いながら種明かしをする。


「こいつらと嬢ちゃんたちだな。虫がダメらしい。」

「そんな。」

「動きが止まってたし、あっちの嬢ちゃんたちに至っては目を閉じちまったからな、護衛としても止めなきゃならん。」

「まったく。なんという事でしょう。」

「ま、俺達ってだけでもないんだし、他をあたってみればいいんじゃね。」

「好き好んで廃鉱山に行く人は、居ませんから。依頼を出したら、受けてくれる人がいますかね。」

「さて、そればかりは。」


トモエがそう笑顔で切り捨てれば、アマリーアはいよいよ肩を落とす。


「そうそう、おばさん。ちょっとお願いがあるんだよ。」

「人にものを頼むなら、もう少し言葉遣いもあると思いますが、それはまぁ私的な場ですから目を瞑りましょう。」


そういって、アマリーアが何でしょう、そうシグルドに尋ねれば、彼は今日の午前中に拾ってきた石を食べ物の皿から少し離した位置に置く。


「今朝拾ってきたんだよ。綺麗だし、珍しいって言ってたから、公爵様にお礼の品ってことで渡してもらえたらって。」

「少し、確認しても。」

「ああ。お礼に相応しくないってなら、言ってくれればいいから。一応フランシスのおっちゃんは喜ぶだろうって言ってたけど。」


そう言いながら、一度席を立ったシグルドが、無造作に希少石の埋まった、鉱石をアマリーアに渡す。

彼女は暫く角度を変えながら、それをあちこちと見たうえで、ため息をつく。


「これ以上ないお例でしょうね。しいて言えば価値が高すぎるとも思いますが。」

「へー。そうなんだ。ま、いいんじゃね。」

「宝石としては、削らないと分かりませんが、特に透明度が高く、大きさも申し分のない物がありますからね。

 数千万くらい行くと思いますよ。」

「こんなちょっと綺麗な石が、そんなにするのか。まぁ、今日の鉄人形で100くらいか。そう考えると大したことないのか。」

「トロフィーと、拾えるものを一緒にするのはやめましょうね。これは、どうしますか。私の方で研磨に出してもいいですし。」

「んー、あと4,5日で戻るから、いいや。そのままで。公爵様が自分でやるだろうって話だし。」

「そうですね、信頼できる相手に、慎重に行わせるので、2週間は要りますね。

 これは、流石にこのまま渡すものではないですから、外装はこちらで用意しますね。」


そういって、アマリーアがそれを机に置いて向きを変えながら検分する。


「そっか。公爵様にそのままこれをポンと渡すわけにもいかないよな。」

「ものによっては、それでも構いませんが、宝石ですからね。傷がつくと価値の落ちる物ですし。

 後はより綺麗に見えますから。」

「へー、ってことは。」


そういってシグルドがアドリアーナとアナに声をかけ、それぞれ教会に物を納めよう、そんな話があるとアマリーアに相談する。


「虹月石ですか、そちらは加工したところが用意してくれるでしょうが、アクアマリンも、そのまま渡すのは。」

「そうなんですね。でも、時間が足りるかな。」

「こちらで用意しましょう。そうですね、明日の昼には用意できますよ。こちらでそのまま届けましょうか。」

「じゃあ、入れ物はお願いします。教会は、手紙を受け取る約束もあるので、私達が。」


そうして、二人がそれぞれの品をアマリーアに預ける。

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