第174話 武器の試作品

そうして新たに子供たちを加えた物の、やることと言えば、午前中は教会、そこでの用事が終われば、魔物を狩って傭兵ギルドで訓練と、やることそのものは変わらない。

子供たちを加えて、教会に行けば、リザから改めて子供たちのお礼を言われたり、護衛の傭兵二人への事情説明を願えば、それもかなえられ、ルイスとアイリスにことの経緯が伝えられ、改めてアイリスだけが驚くといった光景はあったが。

そして、魔物を狩りに出れば、一度狩れたと、その自信がついたからかこの日は、子供たちはそれぞれ灰兎を3匹ほど狩り、その間に少年たちは、準備運動として一対一を終えれば、グレイハウンド複数引きを相手に立ち回る。

シグルドとアナの怪我は軽度なもので、教会で改めて見て貰えば、もうすっかり治ってると、そうお墨付きを頂いた物の、怪我をしたことを警戒してか、少々動きが硬くなっており、それをトモエが改めて傭兵ギルドの訓練中に注意するといった一幕もあった。

そんな一日を終えて、翌日、教会での用事を終えれば、直ぐに揃って工房へと向かう。

宿の好意で、大型の馬車が用意され、全員が乗ってもまだ余裕があるそういった物に買われ、引く馬の数も増えている。

客室には荷を置くスペースに加えて、客席迄誂えられており、なかなか快適なものとなっている。


「おう。待たせたな。」

「いえ、かなり速いと思いますが。」


オユキとトモエにしても、てっきり最初の一振りが試しに作られたのかと思えば、頼んだものがそれぞれ一つづつ出来上がっている。


「なに。そこも含めての腕だからな。どれ、庭に出るか。」


ウーヴェがそう声をかけ歩き出すのについていけば、以前も借りた、武器を振るのに十分な広さと、丸太が並べられた庭へと出る。

そして、その片隅に、頼んだ武器が一通り立てかけられていた。

まだ刃迄はついていないし、柄もとりあえずといった見た目だが、形は出来た物がそこに並んでいる。


「あれだ。確認してくれ。」

「では、遠慮なく。」


そう告げるトモエが早速太刀を手に取り、オユキも長刀を、シグルドが両手剣を手にする。


「確かに、見た目よりかなり重いですね。」


トモエが武器を持ち上げて、そうウーヴェに話す。


「ああ、溢れの素材だからって以上に、よく鉄を吸った。かなり頑丈に仕上がってるぞ。」

「それは有難いですね。ああ、少し振っても。」

「勿論だ。振らなければわからんだろ。」


そうしてトモエが、大太刀に長さの近い刀を振る。

元のそれに比べれば、3倍近い重量があるそれも、こちらで得た加護、その身体能力をもってすれば、問題なく操れる。

とはいっても、体が流れようとするのを意識して制御しなければならないが。

そのあたりは、馴染めば問題ないだろう。

まだ荒い造りとはいえ、見知った形状のそれは、トモエの手に実によく馴染む。

これまでは無理に行っていたことも、それが当たり前と、そうできるほどに。


「良いですね。想像以上に馴染みます。」


そう前置きをして、トモエがただ、と続ける。


「刀身が、かなり固い気がしますが。」

「ああ、そりゃ魔物の素材に鉄を吸わせてるんだ、どうしてもそうなる。

 いや、魔物の種類によってはまた性質も変わるがな。」

「ああ、そういう事ですか。刃がついていれば、試し切りもしてみたいのですが、そうですね、柄の方、このあたりから細くしていただいても。大体これくらいに。」

「バランスが悪かったか。柄の拵えでまた変わるかと思うが。」

「木造りの柄に慣れているので、これより一回り太いくらいに、木で覆いたいのですが。」

「悪いが、うちじゃそれはやってないな。そのあたりの拵えは別の人間に頼んでもいいか。」

「はい、勿論です。」

「滑り止めに巻く革は、それで良さそうか。」

「今のところは。もともと紐を巻くので、それはこちらで。」

「ああ、そういう造りか、見た事が有るな。なら柄のこのあたりに穴をあけておくか。」

「ご存知ですか、はい、その様に。」


そうしてトモエが改めて切っ先から細かく指定を伝え、ウーヴェがそれをメモしながら、あれこれと確認する、そんな時間が続く中、オユキも長刀を数度振って、その感触を確かめる。

想像以上の重量が先端にあるが、操ることは出来、そうしてみれば、先端重量の重さは、むしろ心強い。

柄に使われてる木材が、少々頼りない手ごたえではあるが、そのあたりは改めて良い素材を探す必要があると、そういう事なのだろう。こちらも、今は槍の柄に、それも茎のない袋槍用の物に、穴をあけ無理に入れている、そんな造りになっているため、オユキもトモエに習って、同じ造りの柄を頼む。

そして、トモエは次に両手剣、オユキは太刀はトモエと同じ造りであれば問題ないと放っておき、今回ゲームの中で数度握ったことがある、その程度の経験しかないのに発注した武器を手に取る。

トモエは、両手剣を数度振り、こちらに関しては、そもそもウーヴェにとっても作り慣れた物なのだろう、仕上がりは問題なく、どちらかと言えば使う側として合わせる、それしかないようなものであった。

そこでトモエが武器を置けば、自分用の武器を試しに振っているシグルドを除き、少年たちに試してみるように勧め、シグルドの構えを直す。


「重さがかなり増しましたからね。足の前後幅を少し広げましょう。」

「おう。お、いや、それでも前に体が引っ張られてるか。」

「ええ、そこは慣れも必要になりますから、それでも先ほどまでのように、足を前に滑らせることは無くなりましたよ。」

「ん、げ、ほんとだ。砂地だと、目立つなぁ。」


シグルドが振り返れば、そこには、まっすぐ引きずったような跡がついている。

それを見て、自分がどれだけ武器に振り回されたか、理解ができたのだろう。


「確認には実にいいのですけどね。初めの方、左右によれていますよね。」

「ああ。」

「アレが、悪い振り方をしたときに残るものです。まっすぐ触れず、それを支えるために足が左右にずれる。

 ただ少ししてからは、まっすぐになっていますので、その調整が出来た、そういう事ですね。」

「えっと、いつも通りに振れてるってことか。」

「はい、そうですよ。」

「そっか。で、理想は、この後が全くできないってことだよな。」

「はい、私とオユキさんが振っていた場所を見てくださいね。」


そうトモエがさした先には、オユキとトモエの足跡しかない。


「いや、初めて持った武器で、それは無理じゃ。」

「それができるようになるまで、型を体に馴染ませているのです。」


そういってトモエがシグルドの肩を軽くたたいて告げる。


「それができないうちは、見習い以下ですからね。」

「お、おう。」


そんな師弟関係の一方、セシリアは長刀が気に入ったようで、これまでのグレイブよりも良く馴染んでいる様子を見せる。

そもそも、グレイブを使っている時も、長刀術に合わせた物を教えていたのだから、当然ではあるのだが。


「私、こっちのほうが良いかも。えっと、これ普通に作ろうと思うといくらするんだろ。」

「魔物素材抜きでか、鉄の量が多いからな、4万くらいか。ま、お前さんらが今使ってるのよりも丈夫だし、いいものになるのは間違いないな。」

「うーん。頑張って貯めようかな。でも予備もって考えると流石に無理かな。」


セシリアがそんな話をしている横で、オユキは今回頼んだ、幅の広い刀身を持った剣を数度振る。

反りもある、幅があるため重量もある、それでも柄は片手で持てる者、刀身は短めの太刀程度、そんな武器を数度振れば、想像以上にオユキの手に馴染んだ。

これなら、剣舞の類も、今より進める事ができるだろう、そう思うほどに。

幾つかの注文、切っ先に実際にどこまで両刃にするのかをウーヴェに話すと、興味深そうに見ていたアナに渡す。

それを嬉しそうに受け取ったアナが、何度か振っては、その重さに振り回されて、体を泳がせている。

一つ意外だったのは、アドリアーナが太刀に興味を示し、何度か振ってみては頷いている。

その姿はこれまでの武器よりも様になっており、習いたてにしては悪くない、そう思わせる物だった。


「アドリアーナさんは、こちらが気になりますか。」

「はい。柄も持ちやすいですし。なんだか振りやすいです。」

「間に合えば、皆さんの武器も新調できそうですね。」


アイリスも太刀に熱い視線を送ってはいたが、護衛中として、それを手に取ることなく、仕上げは柄も含めて2日で終わるといわれ、残りはまた1週間かかるがとそう言われたため、2日後に受け取りに来ると、そう伝えて工房を後にする。

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