第173話 楽しい食事

 「最近、この時間が楽しみだ。」


並べられた食事。急に人数が大量に増えたというのに、少し待てば机と椅子が増やされ、二組に分かれる形ではあるが、食卓が整えられ、料理も、子供たちへの配慮をそっと頼めば、大皿料理に手づかみでも食べやすい、そんなっ料理が用意された。

大皿としては、殊更オユキ達が美味しかったと使えた色とりどりの野菜を使ったパエリヤ、ただ以前の物とは使っている野菜が変わっているし、ベーコンも混ぜ込まれている。

そして、薄く焼いた硬めのパンでソーセージとチーズ、何種類かの香りの強い野菜をくるんだもの、サラダ、ナッツ類が含まれた柔らかいパン、こちらに来て初めて見たが、発酵させるという技術は存在するのかと考え、チーズにヨーグルトがあるのだから、当然だと、今更に気が付く。それと魔物ではなく家畜、牛だろうステーキと、実に華やかな食卓となっている。


「よかったのか、俺らの分も出してもらって。」

「日毎に予定が変わりそうですから。」

「宿に着いたら、仕事は終わり、でよかったのかしら。食事の間もという事なら、後で頂くけど。」

「ええ、宿に着くまでで。もしかしたら、宿に護衛と伝えていますので、今後の馬車の手配などでそちらに話がいくかもしれませんし。」

「ま、2台に増やすか、大型に換えるかが、必要だろうな。分かった、こっちで対応しよう。」


そうルイスとアイリスが互いに確認するように、頷きあうのを見て、食事を始める。

子供たちがまだかまだかと、待っていたこともあるが、では食べましょうと声をかけると歓声を上げて手を伸ばそうとするのを、アナが手を叩いて止めて、きちんと食前の祈りをさせている。


「教会が違うのに、同じなんですね。」

「日々の食事は、大地と農耕の神様と秋と豊饒の神様に感謝を捧げることになっていますから。」

「成程。」


そう頷いて、トモエが料理を自分たちの席の物へと取り分ける。


「それにしても、いいお仕事だわ。役得も多いし。」

「その代わり、面倒をお願いしていますから。」

「これくらいならなんてことないわよ。二ヵ月町にも碌に泊まれない移動続き、出てくる魔物も手ごわい、そんな仕事に比べたら、簡単な物よ。ごめんなさいね、仕事を軽んじているわけではないのだけど。」

「ええ、分かっています。それで、明日なのですが。」

「ああ、そうだな。食事を一緒に取るのはそれもあってか。」

「はい。明日はひとまず今日と同じ流れになるとは思います。明後日は、武器の試作ができるはずなので、午後から工房に一度寄ることになりますが。」


食事を各々に口に運びながら、話し合う。

他方のテーブルでは子供たちと少年たちの、賑やかな声が聞こえてくる。


「分かった。どこの工房だ。」

「そういえば、屋号はあったのでしょうか。ウーヴェさんという方がやられている、工房なのですが。」

「あー、そのまんまだな。東部だとウーヴェ工房は一つだ。あのあたりは、そうだな。あっちの子供たちも連れて行くのか。」

「ええ。そのあと時間は見ますが、魔物を狩りに行くか訓練だけにするかは違いますが、やることはありますから。あのあたりに何か。」

「ま、安全度の問題だな。アイリス。後でこっちでも話そう。」

「ええ。少し護衛らしいことになりそうね。」


そうして、話す二人に、今後の予定の大まかな物を伝える。


「あとは、教会での事ですが、公爵家の方と話す機会があるのと、祭りで少々私達もやる事が有る、くらいでしょうか。」

「あら、そうなの。」

「はい。内容については、そうですね、教会で改めて。もしくは傭兵ギルドで伺ってください。」

「ああ。分かった。」

「あとは、武器の試作ができたら、鉱山へ、廃鉱山へ行くつもりです。

 あちらの子供たちにしても、最初はに運びと、そう考えての事でしたから。」

「ほう。そういう事か。まぁ、6人いれば運べるだろう、そっちの護衛が本来か。」

「はい。本来であれば、その時からでもよかったのですが、まぁ、こういった事になったので。」


そうトモエが苦笑いをしながら、視線を隣の席に送れば、そこでは少年たちがあれこれと子供たちの世話を焼いている。


「ま、あいつらにとっちゃ幸運だ。宿もある食事も出る、さらには戦う方法も学べる。」

「学校、最低限ならともかく、ちゃんと学ぼうと思うと結構するものね。」

「そうなのですか。」

「最低限なら、日雇いを繰り返せばどうにかなるけれど、まともに学ぼうと思えば、そんな時間はなかなか取れないし、色々とお金もかかるわ。」

「ああ、そういう物ですよね。」

「ええ、だから教会の子たちには評判が悪いわね。最低限を学んだところで正直どうなるものでもないもの。」

「まぁ、そうなりますか。狩猟者なども見ているそうですが。」

「私も少し通った事が有るけれど、まぁ、お遊びとまでは言わない。そんなものね。

 個人的な感想だけれど、同じ額を払うなら、安物の武器を抱えて、傭兵を一人雇って、一か月魔物相手をするほうが意味があるわ。」


アイリスの率直な感想に、オユキとトモエが苦笑いをする。

最も魔物が弱い西側に行けば、少し入るのかもしれないが、少なくともここ数日外に出たときに、誰かが何かを教える風景は、草原では見られなかったのだから。


「まぁ、卒業生のその後次第でしょう。」


オユキがそう、先方を気遣って、言葉を選べば、ルイスから現実が返ってくる。


「初年度の死亡率が4割だったか。正直希望者も少ないし、そろそろ無くなってもおかしくないな。」

「武器の振り方と心構えをまっとうに教えれば、そうはならないかと思いますが。」

「言葉は悪いが、騎士にも傭兵にもなれない、そういった選択肢とそう取られてるからな。

 で、だいたい名を上げる奴は独学だ。卒業生で名前の売れてる現役の狩猟者なんて、二人くらいか。」

「他の国はわからないけど、この国ならそうね。炎剣と魔弓くらいね。」

「どうやら私たちが考えるよりも、教育の質が良くないようですね。」

「そうだな。傭兵にしても結局ギルドに来てから、改めて叩き込むからな。

 ま、学校に通ってる間に死にました、怪我をしました、それじゃお話にならんからな、当然ぬるい。」


そうして、四人で話しながら食事を進めていると、そういった暗い話題は避けようと、自然と話の流れが変わり、

気が付けばオユキの食事量の話になる。

特に今回は側で子供たちの、オユキと体格のそう変わらない子たちの食べる量があるため、なおの事顕著となった。


「その、オユキさん。もう少し食べたほうが。」


既にメインの食事に手を付けず、水菓子に手を伸ばして、少しづつ食べるオユキにアイリスがそう声をかける。

彼女は獣人であるからか、分厚く大きなステーキにしても他の料理にしても、肉を主体に結構な量を食べていた。


「その、心掛けてはいるのですが。」

「向こうのガキどもより少ないぞ。」

「分かってはいるのですが。」


そうオユキが言い淀んでいると、アイリスが席から立ちオユキの側によって鼻を利かせる。


「人以外の気配は感じるから、そちらが原因かしら。」

「そうなのか。」

「覚えのないマナの匂いだから、何とまでは分からないけれど、見た目以上にそっちの気配が濃いわね。」

「そうなのですか。トモエさんも、何か混じっているとは思うのですが。」


そうオユキが告げれば今度はトモエに近寄って鼻を動かす。


「こっちは炎獅子かしら。少し違う気もするけれど、獣人の血が入ってるなら、部族は分かるのかしら。」

「いえ、異邦からの身ですから。」

「ああ、開祖様を知っていたし、成程、そうい事ね。」

「私たちの世界では、人だけでしたからね。こちらに来るときも人そう言われていたので。

 何か混ざっているだろうと、その予想はしていましたが、やはり、ですか。」

「人より、そっちの方が濃いと思うわよ。」

「調べる方法があったりしますか。」

「ないわね。同族や近縁種なら、分かるそういった物でしかないもの。特徴が出てないと。」


そんな話をしているうちに、しっかりと食事をとったからだろうか。

子供たちのうち一人が、電池が切れたように机に突っ伏し、他の子たちも舟をこいだり目をこすったりと、そんな仕草を見せ始めている。

その様子に、少年たちがそれぞれ抱えて彼らの部屋に連れて行き、そのまま食事の時間は終わりとなった。

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