第175話 領都の狩猟事情
始めて武器を大量に扱う店舗に足を踏み入れたからか、子供たちは店の中では非常におとなしく、馬車に乗ってからようやくあれこれと話し出す。
ただ、今のところは手に入りやすく、安価な武器が何かといいでしょう、そうトモエが説明し、子供たちもそれに頷く。自分で、自分たちで買えなければ意味はないのだと。
そういった思いが魔物を狩るときに、少々過剰な緊張感をもたらし、トモエが鋭い言葉を度々飛ばすことになったが、それでも昨日より今日と、動きが良くなっている。
それに、護衛の手によって、ルイスとアイリスではなく、辺りの魔物が狩られているからだろう、初めてここに来た時よりも、明らかに魔物の数が減って見える。
「これは。そういう事なのでしょうか。」
「すまないが、狩猟者ギルドに寄る前に、一度傭兵ギルドに寄らせてくれ。」
「話をまとめるのですか。」
「ああ、これは少しな。いい方は悪いが問題がある、そう判断するしかない。」
「魔物をあまりに放置すれば、氾濫に繋がるからですね。」
「そうだ。すまんな、護衛が都合を優先するべきではないかもしれないが、こっちが優先なんだ。」
「いえ、町全体の事ですから。どうしますか、南門で一度確認しますか。
確か町周辺は、騎士の方々が駆除を行うと、そうなっていたと思いますが。」
そう、トモエがルイスに尋ねれば、彼はそれに頷く。
「悪いが今日はここで切り上げてくれ。」
「分かりました。」
そう言われ、まずは南門で、ここしばらくの状況を確認し、あわせて騎士の同行を確認する。
そこでも、少々問題が判明したため、結局騎士団から一人、傭兵ギルドから一人、それぞれ責任者と呼べる立場の人間言も併せて、改めて東部狩猟者ギルドへと集まることになった。
オユキ達からは、オユキとトモエだけが、残りの面々は魔物の情報をどうやって確認するか、それを説明してもらい、一緒に周辺の魔物を確認するように言いつけている。
「そうか。南はそれほどか。」
傭兵ギルドからの報告を聞き終えたフレデリックが、重々しくそう呟く。
「私の団は、今ほとんどの隊が遠征中だからな。それにしても、そこまでか。
だが正直西と東、今はここ以外に人が割けぬ。」
そう第三騎士団の団長ロビンがそう告げる。
「贈り物を手に入れるために、騎士様が使いっぱしりか。悪い冗談だな、おい。」
それに受付に座っていた、傭兵ギルドは長が受付に座る決まりでもあるのか、東部の支部長ウィルマーがそう茶化す。
「言葉もない。」
だが、その言葉にもロビンはただ力なくそう返す。
その様子に、ウィルマは―自分の頭に手を置いて髪をかき混ぜると、話題を切り替える。
「にしても、問題は南部だ。幸い今は目に見えるのは減ってるらしいが、問題は目の届いてない場所だ。
森の中は、本当に大丈夫なのか。南東に広がってるだろ。」
「東側、それにそこから近い森は、恐らく問題は無い。少々素材の納品が増えているが、まぁその程度だ。」
「で、南部の連中は呼んでないのか。」
「呼んだとも、来ていないだけだ。」
そうフレデリックが言えば、ただウィルマ―がため息を漏らす。
「その、私達が聞いてもいい話ですか。」
「ああ、悪いなこっちの愚痴は確かに今すべき話じゃないな。
家から出してる護衛、ああ、公爵様からの方だ、そっちからの報告もまとめたが、はっきり言って数が多すぎる。お言葉の事は聞いちゃいるが、それにしても異常だ。ついでに他の狩猟者も、巡回の騎士も見てないと、そう聞いてるぞ。騎士に関しちゃ原因はわかったが。」
「南部の狩猟者ギルドだがな、今ほとんどが町から離れておる。依頼に飛びついたものが多くてな。
正直、聞いた話では怪我人と死者もかなりの数だとか。」
「正確な報告は。」
「上がっておらん。いつも通りに黙り込んでいるさ。」
そういってフレデリックが、大きくため息をつく。
「成程、始めにこちらに来た私達は幸運とそういう事ですか。」
「ま、そうだな、っても俺らのところは問題ないが。
どうする、こっちから話して南の手が空いてる奴らにやらせるか。」
「今は、そうするしかないか、対処療法だが。騎士団は、いつ頃。」
「分からん。犯罪ではない、それが問題だな。他の騎士団も、正直下手に動かせば手が空いてるならと、押し込まれるだろう。公爵様には腹案があると、そう伺ってはいるが、何にせようちのが戻って来るのはまだ先だ。
南部の狩猟者自体はどうなんだ、西から移せそうにないか。」
「南は、な。この際はっきり言うが、貴族の色が強すぎる。多少なりとも繋がりが無きゃ、あの地区ではまともに生活できん。」
「それほどか。」
そうして、再び三人そろってため息をつく。
「あの子たちには、聞かせたくない類の話ですね。」
その話を聞いて、トモエがそう呟く。
「そうですね。なんにせよ氾濫がすぐに起こるわけではなさそうで、何よりです。
では、私達は戻りましょうか。」
そのトモエにオユキはそう告げる、実際のところはこの場にいる3人に向けての物ではあるが。
オユキの発言の意図が分かったのだろう、フレデリックがオユキを呼び止める。
「ああ、すまないな。だが、氾濫に関してはないとは言い切れない。」
「成程、南部の狩猟者ギルドはそこまでですか。」
先の正確な報告が上がっていない、それがよもや其処までに及んでいようとは。
さて、神々が実際に力を持つ、そのような世界でそんな怠慢が許されるのだろうかと、オユキとしてはそちらが少々気になってしまう。
「そうだ。そこまでだ。私も今日話を聞くまで気が付いていなかったがな。」
そうしてフレデリックが大きくため息をつく。
そして、目を閉じたまま話を続ける。
「淀みについては例年通り、問題がないと聞いている、だが今の状況を聞けば、そんなはずはない。
南以外も、魔物の量が増え、持ち込まれる素材も増えている、そしてそれに合わせるように淀みの増加も早い。
魔物が増えているのだから、それが自然、そういう物だろう。」
「しかし、実際には魔物が増えている南側、それも放置しているにもかかわらず、例年通りの報告ですか。」
「あり得るはずのない事だ。」
「南か、第2を動かすか。とはいっても、もう少しかかるが。」
「ああ、今は公爵様の直接の指揮で、動き回ってるんだったか。祭りの事もある、忙しいだろうな。
いや、それでも少しは割けないのか。事によっては、ただじゃ済まんぞ。」
「そればかりは、私の一存でどうなるものでもない、一先ず今回の件を報告書としてくれ。直接公爵様に諮る。」
ロビンがそう告げれば、残りの二人もため息交じりにそれに頷く。
そして、フレデリックが新たて二人を見て、忠告する。
「南で狩るのはいいが、暫く町には近寄らないようにしておいてくれ。」
「外でトラブルになる可能性はありそうですか。」
「ある。残念だがな。」
「取り繕おうとはしますか。ただ東はあの子たちには少し早いんですよね。」
「うちの護衛がいるからな、問題ない。」
「ご迷惑おかけします。」
「なに、それが仕事だ。南の傭兵ギルドにも話は通しておくぞ。」
「おや、傭兵ギルドは南でも気風が違うのですか。」
「ま、どこまで言っても客は客だからな、貴族だろうが商人だろうが、護衛の時には同じ扱いだ。邪魔なら馬車に叩き込むし、言ってきかなきゃ殴って寝かしつける。」
そういって、ウィルマ―が実に楽しげに笑う。
「ならそちらは任せる。それと悪いが、人を出して、魔物を狩るようにも話を通してくれ。
費用は、しかたない、こちらから出そう。」
「ま、あっちはそもそも起きてることを認めてないからな、出さないだろうさ。
ま、素材を買い取ってくれんなら、最低限にしておくさ。」
「助かるよ。」
そこでひとまずオユキ達の聞くべき話は終わりだろうと、席を立つ。
氾濫が起きなければ良し、強力な魔物が出てきたとして、さて、対応できるものであればやるべきことは変わりない。
問題は北側、鉱山の方がどうなっているかではあるが、そちらは話を聞く限りは問題がなさそうではあるので、一先ずは良しとするしかないのだから。
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